遭遇

メルとマルをつれて、近くの山に散歩にいく。妻と娘たちと。道中、湧水が出ていて自由に汲めるところがある。そこに対向車線をはみ出して、不自然に停車する車。ぼくも自然とスピードを緩めながらぶつからないようにそっと通り過ぎようとしたとき、湧水が溜まったところに、熊。

「熊だ!」とぼくが叫んで、真横に車をつけるとそそくさと熊は向きを変えて山の藪の中に入って戻っていった。一瞬、目が合った。9割、警戒心。意外にもあとの1割は「かわいい」だった。ニュースや絵本でみたとおり。白い月輪も胸にあった。

娘たちはお尻をとらえたようだ。助手席に次女に抱えられていたマルは全く反応せず。

「ついに見たね、いたね」

めげずに車を進めて、山奥の公園につく。我が家以外、だれもいない。視界は拾い。熊がこないか周りを気にしながら、いざというときはどこに逃げるか考えながら、ときどき大声をだしながら、マルを散歩させて、メルをはなつ。メルはあまり動かない。みんなそれぞれヤッホーといったり叫ぶ。大声を思いっきりだすのはいつぶりだろう。

次女は絵日記の宿題があると、色鉛筆を持ってきていた。山並みを描き出す。

日が傾き、夕暮れが近づく。

帰りの車中も話題は熊のことでいっぱい。

かわいいと思った感情を妻に伝えると「それは車の中だから。何もないところで会ってみろ」と実に説得力のある重いお言葉。

帰り道、湧水の脇に、パトカーが停まっていた。ここを通るたび、今日の熊をぼくらは思い出すのだろう。思い出ができた。

何事もなくて、よかったが、あれは小熊だったのかもしれない。気が抜けない。用心用心。