「行ってきます」と長女と妻が先に家をでる。妻は長女の登校の付き添い。
そのあと、「行ってくる」と長男が追いかける。彼は走って長女と妻を追い越して行くのだろう。
しばらくして「ただいま」と長男だけが戻ってくる。
「どうした?」と聞くと、答えを待たずとも何が起こったかわかった。
左の膝小僧から血がダラダラ流れている。
「ころんだのか」
「うん」
道路の側溝の穴に靴が引っかかったようだ。重いランドセルを背負っての転倒、痛かっただろう。
「手、ちゃんとついたか」
「うん」
顔はぶつけていない。両手の手の平もまだ痛そうだ。
服を脱がせて、お風呂場でシャワーをかける。500円玉くらいの広さで皮がしっかりすり剥けて、ピンクの肉が見えている。このかんじ、懐かしい。
そりゃ傷口が水にしみるのだろう、泣きそうな声をあげる。
しばらくして長女を見送った妻が戻ってくる。「先を走っていて、いきなり視界から消えた」のだそうだ。
倒れた横を通りがかった車が止まって、運転していた兄ちゃんが降りて声をかけてくれたのだという。「大丈夫か。これしかないけど」と濡れティッシュをわたしてくれたようだ。妻が「優しいね」と感動している。
「そういうとき、そうされたらうれしいやろ。お前もそうしてあげな、そういうとき。」
「うん」
まだ血はとまらない。大きなガーゼを貼るが、細かな傷口までカバーしきれない。
「その膝、ずっと怪我してるよね」と妻。
ぼくの車で小学校まで送ることにした。それでも走ることはやめないだろう。ザ・少年のエピソード。