鮨デビュー

急に涼しくなった。息子がはなれを自分の部屋にした。窓を閉めないと朝は寒くなったそうだ。秋だ。

この夏の息子に関わる思い出は、一番は昔からの行きつけのお鮨屋さんにデビューさせたことだろう。娘二人がお泊り保育の日に、妻と3人で行った。中学生になったらデビューさせてもいいかなとぼんやり思っていた。お客さんはぼくらだけ、しあわせな時間であった。

普段の回転寿司ではマグロとブリしか頼まないが、次々と種類のちがう鮨が出てくる。どれも美味しいに食べていた。最後はネギトロの手巻きを追加で頼んでいた。

大将によれば、味覚というのは、少しずつおいしいものを食べるより、急においしいものを一度食べると一気に覚醒して違いがわかるようになるそうだ。その日である。

「ぼくのお鮨よりおいしいお鮨屋さんはたくさんあるけどね」と謙遜しながら。ぼくにとっては、ここよりおいしいお鮨屋さんはない。それはちゃんと口にして息子にも伝えた。

「おまえが大きくなったら、父ちゃん母ちゃんにごちそうしてくれ。それが一番の親孝行だ」とぼく。

「ぼく、それまで板に立たなきゃいけないのですか」と大将が笑う。

最初に訪れたときは、息子が生まれたかどうかくらいだった。次の世代を連れてくる日がやって来るとは。実に感慨深い。妻も久しぶりに舌鼓を打って、いい夜だった。ゆっくり息子と会話もできた。

その後、妻がコストコでお寿司を買ってきた。ぼくはうまいうまいと食べたが、息子は「おいしくない」と珍しく言ったそうだ。いいことなのかそうでないのか、鮨だけは舌が肥えた模様。