指切り

長女がアンネ・フランクにはまっている。図書館で「『光ほのかに』なる本を検索して借りておいて」と頼まれた。

カウンターで書庫から出てきたのは、茶色いシミだらけの、中のページも色褪せた年季のはいった古い本。カバーもない。1ページ目は斜めにやぶれ、セロハンでつなげてある。セロハンもベッコウ色に変色している。

間違えた。そう思って長女にみせると「そうそうこれこれ。面白いよ」と嬉しそう。「このにおい、好き」と古い紙も楽しんでいる。発刊されたのは70年以上も前。

読もうとすると、旧字体のオンパレード。「真実」は「眞實」になっている。

「パパ、読んで」

枕元で読んでやると、やがて寝た。面白くなって読み続けた。「もう、寝てるんじゃね?」と横から息子。みずみずしい日々の記述に、心あらわれる。

もともと、学校で現代のアンネ・フランクの本をたくさん読んでいたらしい。ユダヤ人迫害によって、15歳で閉じる生涯。

いろんな種類の関連本を借りてきてと頼まれた。アンナの同級生か老人になってから、アンネに宛てた手紙や、伝記の文庫本など。文庫本は内容同じなのに、見比べながら、うれしそうだ。

「オランダの、アンネの隠れ家、今もあるから、見に行こうね。約束」

指切りげんまんした。

アンネの本は、父によって出版された。

「わたしの両親は、わたしたちの子どもは元気であればそれでいいと思っていて、勉強をしなさいとか、いいません。だけど、わたしは成績が悪いのはいやなのです」という旨の一節。

父は、優しく包むのみ。かくあるべし。

アンネと別れた後のお父さんの思いを想像するだけで胸が締め付けられる。このお父さんのおかげで、70年後に生きる一人の日本人の心をいま、打っている。すごい。

大きくなったら友だちと行く、というかもしれないが、ここは、父娘でいきたい。