土曜日のルーティン最終回

息子がバレー部の顧問から「この土曜日は中学校最後の自由な休みです」といわれたらしい。これからは部活があるかぎり、練習または試合が毎週あるということ。サラリーマンならげんなりするが、彼はサラリとしている。休みがほしいという感覚はなさそうだ。

ぼくにとってはわりと大きいことである。5年間続けていた彼にさいてきた土曜のルーティンがいよいよ終わりを告げるということだ。テニス、図書館、最近はそのあと塾の送り。途中で決まったスーパーでアンパンとこしあんとサンドイッチ、ミルクコーヒーも昼ごはんで買うというもの。

最近はもう図書館で本を予約して大量に借りるということがなくなって、好きなミステリーをじっくり読むようになった。図書館の児童コーナーで彼の興味のあるものは読み尽くしたのだろう。その代わり、ぼくは娘たちが喜ぶ本を最近は大量に借りるようになった。

先週あたり、妻からスーパーの昼ごはん代がぼくと合わせて月8,000円もかかっていると査察が入り、もっと節約しろといわれた。

最後の土曜日はそれもあって、妻が「おむすびをつくってもっていけ」という。従順にしたがっておむすびを作ろうとすると息子が「えー、パンがいい」と嘆く。

「カネがない。ほかに何を削る?」とぼくがいうと反論も面倒くさいと判断したのだろう、即座に「じゃ、いいです」と返ってくる。

塩とのりたまがいいというがのりたまはないが、2種類つくってやる。紫のしそのやつは苦手らしい。

今日はいつものコースに加え、自由な間にしておく雑事をこなさなくてはいけない。最初に眼科にいく、学校からももらってきた要検査の紙を受付で出す。

「おれ、最初にメガネかったの、小3だっけ?ドラゴンボールを蔵で読んで一気にわるくなった」

小3か覚えていないが、ずっと口を酸っぱく注意してきたから、ショックで忸怩たる思いだったのは覚えている。

視力は妻よりも悪かった。予測はできていたが、受け入れたくない現実。愕然とするが、もう仕方ない。

「わるくなったいじょう、付き合っていくしかない。」

「うん。」

メガネも買い換えることになるし、スポーツするならやがてコンタクトも必要になるだろう。自転車も裸眼ではもう危ない。加害者にも被害者にもなってほしくない。厳しくメガネをかけろという。

そのあとスポーツ店にいって、ハーフパンツをかってやる。長くはいたテニスのものはもうピチピチだから。

「図書館いくには、何分で選ばんなん?」入り口で尋ねられる。

「10分」

「ふうん。じゃ、図書館いいわ」

ハーフパンツを買うのに10分もかからないとたかをくくっていたが、彼の場合はじっくり試着をして選ぶ。予想はしていたが、やはり慎重である。

最初にぼくが選んだ1,000円のものを履いたら「なんかいやだ」と拒絶され、3倍の値段のアディダスのものを渡したら「これがいい」という。

「だけど、それ今履いているやつと丈がかわらんじゃないか。さっきの3倍もするのに、すぐに履けなくなるのきついぜ」とまたぼくがケチケチ発言をすると、また「じゃあいいです」とすぐ交渉せずに打ち切られる。そして、結局アディダスのワンサイズ上のLLを買うことで決着する。車の中で新しいそのハーフパンツに着替える。テニスに5分遅刻してしまう。

彼のテニスの間に図書館にいって、ぼくの薦めで彼がようやく読みはじめた『バチスタ』を延長し、長女が借りてきてという『銭天童シリーズ』を予約し、次女が好きそうな本を借りる。そのあと、やはりスーパーにいてアンパンを2つとミルクコーヒーを買う。サンドイッチ分を節約すれば妻も何もいわないだろう。結局、ケチケチ発言をして、彼が諦めても買ってあげている。

テニスは少ししか見られなかったが、身長が大きくなった分、サーブが入るようになったとみえる。しかし、これからは視力矯正した方が彼の上達のためにもいいのだろう。

テニスのあと、車の中で着替えて塾で落とす。これで彼のためのルーティンは終わり。ついに最終回であった。

最近は彼ははなれのシングルベッドで一人で寝ている。ぼくはその横で敷布団で寝ている。彼に「一人だとさみしいだろ」とかまをかけるが、笑いながら「寂しくありません。おれ、一人で寝てるじゃん」。もちろん分かってはいる。

「だけど、この季節ははなれが気持ちいいからな。メルがきたら、朝起こしてくれるし。」

「うん。」

彼の部屋になっても、出ていけとはいわない。