盲腸

「父ちゃん、何歳まで生きる?」(息子)

寝る前布団で。

「そんなのわからんわ。『仏様のお与えの命』とじいちゃんがいってた。生きているということに感謝して一日過ごすのみ」

「あのお墓に入っとるん?」

「そうだよ。骨がある」

「ひいじいちゃん、享年何歳やったん?」

「83くらいかな。」

「会えんかった」

「でも、お腹におまえがいると伝えたとき、すごく笑ってた。最後の笑顔や」

いつもいっているこの話。

「うん。長生きしたん?」

「そうやろ。大往生や。戦争もいったし。生き延びて」

「戦場にはいってないやろ?」

「いったよ。陸軍の兵士。写真みた。アジアの方にいっていたはず。」

「そうなんや。敵、撃ったかな」

「その話は聞いてないな。でも、盲腸になって戦線離脱で帰国して、手術したら戦争が終わった。盲腸で生き延びた。盲腸のおかげで命拾い。そしておれがうまれて、おまえがうまれた。」

「死なれてたら、困るな。」

ひいおじいちゃんのこの強運を、この子たちにぜひ受け継いでもらいたい。