親孝行

我が家の木製建具の引き戸が、どうもネズミに齧られているようで、けっこう端っこが傷んでいた。原因が分からなかったけど、どうもネズミのようだ。家の土間や中庭でなんどか目撃して、そのすばしっこさに手を焼いていた。米袋も外からホジホジやって穴を開けた形跡もあり。メルの餌もあるし、絶好の場所なのだろう。やむを得ず殺鼠剤を買って各所においた。

昨日、また妻と長女が中庭で逃げていくネズミをみたそうな。次女が「わたしもみたかった」とダダをこねた。「住み着いているんだね」と妻。

「メル、食べてくれないかな。」とぼく。

「メルちゃんのスピードは全く追いつけない。あの子、もうお嬢ちゃんだから。」と妻。

そして今日。妻から携帯に驚きとともにLINEが。

「メルが食べた!」

よっぽど興奮していたのだろう。何を食べたか書いていない。だけど察しがついた。

メルがネズミを食べてくれたそうだ。

「続きは動画で」

 

帰宅時。公文の息子を途中で迎えて、二人で夜道を自転車で帰る。

「メル、ネズミ食べたらしいぞ」

「まじで?知らんかった。鳥類って、哺乳類食べるんだね」

 

家について早速話題にした。長女も次女も興奮気味にはなす。

妻が帰宅したら、すでに口にくわえていたという。しっぽだけが口から出ていた。

 

妻が携帯を持ち出して、動画を見せようとする。我が子たちが取り合いになることを先に見越して「一人ずつね」とルールを決める。息子、次女、長女の順にみる。そのあとで、ぼく。

「痛かったんだと思う」と妻。口にくわえながら、バタバタと何周も中庭を回っている。口のなかでジタバタしているのがつらそうだ。

何周もして、まだ口にネズミが動いているところで動画が終わっていた。まだ途中で先がみたい。

「一度撮影やめて、助けてあげようと思って。」

でもその後、すぐに飲み込んでしまったらしい。そしてすぐにウンチをプリッと出したのだとか。

「クチバシに血がついてたよ。」

我が家の中庭がサバンナになったようである。

その後、妻が草むしりをしたときも庭についてきて、平和に過ごしてそのあとすやすやねたようだから、体調に変わりはないようだ。ほっとする。

「メルが捕まえるところ、みたかったな。」

昨夜見くびっていたからなおさらである。

「弱ってたんじゃないの。」と妻。すばやくメルが捕獲するのはまだイメージできていないらしい。

「でも、ほんとうにでかした。勲章あげたいわ」とぼく。建具の敵を愛鴨がうってくれた。親孝行なやつだ。

「勲章首からさげても、いやがってすぐとるだろうけどね。」とすかさず息子がいう。

ぼくがみたのは「指先くらいの小さなネズミ」だったと話をしたら、「このくらい?」と長女が自分の指先で示してくるので、「いやこのくらい」とぼくの親指で示す。

「でっか。」

イメージと異なった大きさだったようだ。