鴨とドローン

妻がどこか行きたいというので午後は山の方にドライブに行くことにした。曇り空が青空になって風がない。何年ぶりかにドローンを持っていくことにした。メルも連れていく。山の奥の公園で人気はないと思っていたが、遊具があるせいか、ちらほら家族がいる。

横のだだっぴろい広場は草が刈られていて、メルにもドローンにもちょうどいい。息子がドローンを操作する。長女と次女も「やりたい」というが「難しいからダメ」と退けたらいじけながら隣の遊具で妻と一緒に遊ぶ。妻はこれも見越して遊具と広場がセットになったここを選んだそうだ。一理ある。

ドローンは2号機である。前も書いたか覚えていないが、この近くで初めて飛ばしたら、そのままどこかに飛んでっていまったという、開けたばかりのプレゼントの操作時間が5分だったという息子にとって忌まわしいトラウマがある。プノンペンで友人に体験させてもらったプロ用が面白くて、買ったものだった。

不良品だったのかもしれない。そもそもプロ用とこの安いおもちゃではコントローラーの届く範囲も違うから、ぼくももっと慎重に一緒に寄り添ってやるべきだった。もちろん当時息子は泣きじゃくり、自分を責めて頭を殴っていた。自分を攻めるんじゃないとぼくに怒られてまたいじけていた。帰りに散歩して、遠方まで見渡せる風景をみて、きれいなユリの花を一輪拝借して持って帰った。悲しい日でもいいことがあると教えてあげたかった。でも彼の心を慰めるにはもちろん不十分だった。ぼくにとっても思い出したくないくらいつらく、不憫な一日であった。

この顛末をメーカーにメールしたら、なんと新しい1台を届けてくれた。感謝してもしきれないくらいうれしい対応だった。でも息子は喜んだものの、怖くてあまり触ろうとしなかった。ずっと新品のまま、押入れに入れたままだった。

数年たった今日、そのトラウマも幾分かは溶けたようで、使う年齢も適齢になり、楽しんでいたようだ。遠くにいかないように慎重になりながら操作して、メルや長女と次女を撮影している。

息子は長女と次女に使わせるのはためらった。過去の顛末があるのだから仕方がない。ただ、彼女たちは我慢しきれなかった。息子がメルや遊具で遊んでいるすきに、長女に使わせてみた。「飛んでっちゃったら、大変だからね」とおどした。

驚いたことに、長女はうまく近くにホバリングさせることができた。ぼくより上手い。意外に器用なんだな。知らなかった一面をみる。

その姿を見逃さず私もやらせろと次女が駆け寄ってくる。断れないのでやらせることにする。心配そうに長女が横に寄り添う。

「こっちが上と下、こっちが前うしろ、左右ね」と説明してあとは見守る。

キュイーンと音がして、浮き上がる。やはりコントロールが効かなくなり、自由にドローンがあさっての方向に飛んでいく。トラウマがよぎる。長女がカンタンにできたこともあり、油断した。

「降ろして!降ろして!」

長女の焦った声が聞こえる。ぼくはドローンを追いかける。

ドローンが走っていく先には他の小さな子連れの家族が遊んでいる。まずい。高度を下げながらまっしぐらに向かっていく。ぼくも追いつかない。

「すみませ〜ん」と声を出しながら追っかける。小さな男の子をかするようにスピードを落とさず地面に着地。ヒヤリと肝を冷やす。

改めてドローンを拾いながら謝りながら長女と次女のもとに戻る。息子も危機感を感じ取って一緒にいる。次女は罪悪感からもう泣いている。息子は「だからいったんだ」と攻める。やはり、やらせるべきではなかった。ぼくの判断ミスだ。もしも男の子にぶつかっていたらと思うとゾッとする。ドローンを追いかけてもむだだ。一緒にコントローラーを触るべきだった。またドローンがなくなってしまうという焦りから意味のない行動に出てしまった。

久しぶりのドローンはこれでおしまい。妻が切ってきた梨を振る舞い、それで一同気持ちがまた整った。次女も気を取り直した。

「むずかしかったのに、一緒に操作しなかったパパが悪い。チャレンジしようとしたのはいいこと。」と伝えると深くうなずいていた。

ドローンから撮影した映像には息子が撮ったメルとそれを追いかける長女の姿が映っていた。

おまけに。メルが何かを加えているとおもったらそこそこの大きなミヤマクワガタだったそうな。息子が喜んで救出してあげる。今年もクワガタは一度探しにいったがみつからず、その後も結局いけなかった。彼にとっては昨年に続き、メルのおかげで自分で捕まえた2匹目の収穫である。夏の終りに、素敵なプレゼントをもたらせてくれた。

帰りの車中もミヤマクワガタを大事そうに手のひらに乗せている。日が沈み始めている。みんなで綺麗な夕焼けをみながら帰宅。

「昨日も、自転車乗りながら夕日がめちゃきれいだった」と息子が教えてくれる。

カブトムシは昨日オスもメスも死んでしまい、今日埋めたところであった。その主がいなくなった虫かごに、ミヤマクワガタが入った。昆虫ゼリーもまだある。草むらにいて、メルに捕まるくらいなので弱っているのかもしれないが、少しでも延命して息子を喜ばせてほしい。

3人それぞれの公園タイムであった。「鴨とドローン、変な家族と思われるよね」と妻が行っていた。それでいいのである。

「ドローン、楽しかったな。」とぼく。息子がうなずく。復活できてよかった。また風の弱いときに、もっと広大な公園で思いっきり飛ばしたい。

夕食はラーメンに行れていく。ぼくが一人ランチで行って好きなところ。息子はロードバイクの本を読み、娘たちはもってきた色鉛筆と画用紙にお絵かきをしてラーメンを待つ。長女は好きな家の絵、次女はラプンツェルとメルの絵を描いていた。