この歳になったら、諦めなくてはいけないこともたくさん出てくる。若いときにしかできなかったこと。たとえば海外、とくに欧米への旅。大学の同級生が次々大学院のとき、留学に旅立っていた。いまになって、その道に進んだ彼らの賢明な判断に気づく。ぼくもしていたら、建築をあきらめることをしなかったのではないか。能力だけでなく、引き出しと情熱と信念の原動力と馬力の差が、彼らと歴然としてある。みにくい言い訳。

みたかったもの、挙げればキリがない。ローマのパンテオン、ピラミッド、パルテノン、ミラノのドゥオモ、ケルン大聖堂、サンチャペル、ル・トロネ、ギリシャエピダウロスの野外劇、ストックホルムの市庁舎と図書館、ルイジアナ美術館、キンベル美術館、エシュリックハウス、バルセロナのパビリオンとサグラダファミリア、ブリティッシュアートギャラリー、ブリオン・ベーガ、カステル・ベッキョ美術館、サン・マルコ広場、スペイン広場、サン・カルロ・アッレ・クワトロファンターレ落水荘、バランザーテの教会、長女と約束したアンナの家。心で何度もイメージしてきたもの。あげるだけでも楽しい。現実に行った人がいるのは本当に羨ましい。我が子たち以降、次の世代に託そう。別に無理していかなくてもいいけど、行ったら「パパ来たよ」とその場で写真とるとき言っておくれ。

エピダウロス劇場から自宅まで、ためしに経路を調べてみる。111日の徒歩でいけるそうだ。なんだ老後8ヶ月か。諦めなくてもいい気になった。ありがとうスマホ