『彼岸の図書館−ぼくたちの移住のかたち』/青木真兵・海青子/夕書房/2019
・農業をやっている人に聞くと、作物は自分の労働の成果であるというより、太陽と雨と土の恵みだというふうに感じるらしい。自然から気前よく贈与を受けている、という気持ちになるみたい。それは工場で工業製品を作るプロセスが人間にもたらす達成感とは全く別物だよね。(内田樹)
・大きく分けると、3・11の後にも「平時モード」のままで生きている人と、こんな生活いつまでも続くはずがないと見切って、「非常時モード」に切り替えた人に二極化していいと思う(内田樹)
・世の中を見ているとわかるけど、人文知が要求されるのは、混乱期なんだよ。自分たちの暮らしている社会基盤の足元が崩れてきて、価値観が揺らいでくると、不思議なもので、みんな「命とは何か」とか「愛とは何か」とか「国家とは何か」とか「貨幣とは何か」とか、根源的なことを考え始めるんだ。(中略)世の中には確かに「実学的な学問」と「非実学的な学問」があるんだけれど、これは要・不要や効率・非効率の区別じゃなくて、必要とされる時代状況が違うということに過ぎないんだよ。(中略)でも、ぼくらはもうそんなのんきな時代にいるわけじゃない。もう激動期に入っている。だから、人文知が必要なんだよ。非常時なんだから。都市とは何かとか、農業とは何か、とか共同体とは何かって、みんな真剣に考え出しだじゃない。十年前だと、まだそんなこと誰も言ってなかったでしょう。(内田樹)
・日本政府が考えている30年、50年のあるべき国家像はシンガポールだとぼくは思っている。ただ、彼らは心に思っているだけで口には出せない。そんなこと口に出したら、与党は首都圏以外の選挙区でぼろ負けして、政権交代が起きちゃうからね。だから、「地方創生」というような真っ赤な嘘を掲げて、地方の有権者を騙している。十年後には「地方創生」なんて、誰も言わなくなっていると思うよ。(内田樹)
・幸い今のところまだ日本には豊かな自然環境とこれまでの蓄積してきた国民的資源がある。治安はいいし、医療や教育水準は高いし、他国に比べれば公務員のモラルも高いし、健康保険制度も機能している。日本の制度資本は世界的に見ればかなり立派なものだよ。だから、今後基盤は脆弱化するけれども、少しずつ丁寧に使い伸ばして、高い質を維持することはできると思う。(内田樹)
・活発な消費活動やキャリア競争の時代が終わって、定常的な、あるいは少しずつ貧しくなっていく暮らしの中で、一人ひとりが自分の幸せを手づくりできるような生き方に切り替えないといけない。でも、それって、かなり盛り上がらない話であって、これまでのイケイケの人たちの世界観を全部変えろと言っているわけだから、ネトウヨが怒るのもわかる(笑)。(内田樹)