「今日のチャンピオンは」(次女)
お風呂場で、自分の脇を洗うときに「ワキワキ、こちょばし〜」というのをやっていたら、ウケた長女が真似した。長女が、自分とぼくのどっちが面白いかを次女に判定してと言い出し、1回きりだったはずのオフザケが大ごとになってしまった。
「もう1回やって」と次女から言われて、双方披露する。当然、こういうのは繰り返すほど、面白くなくなる。というか、それがわかっているので、やる方もモチベーションを維持するのが困難なのだ。
二人の演技が終わったあと、次女が
「今日のチャンピオンは」といって、その後考え込む。
10秒ほど黙ってから、「まよっちゃうな。もう1回やってみて」と指示が出る。おいちゃんとみてるのか。早く決めろ。
長女はめげずに全力で「ワキワキ」をやるが、最後にやる変な顔がマイナーチェンジしているだけでさして前回と変わっていない。ぼくもしかり。そしてもはや次女はウケていない。審査員のプレッシャーに押し潰れそうになっている。
「今日のチャンピオンは」と再度いうものの、何をみていたのかまた「迷っちゃうな」といいだし、延々この再演技を5回ほど繰り返させられるハメになる。まったく衰えをみせない長女はメンタル強い。
「面白かったほうを、いえばいいんだよ」とたまらずいうと、
「パパ、負けても泣かない?」と訊ねてくる。それを気にしていたのか。
「泣かない。大丈夫」
長女の方に目をやると、長女も察したのか
「私も泣かないよ」と手を顔の前でふり、全然平気の素振り。
次女は更に迷ったのか、なかなか決められず。何度かのさらなるアンコールのあと、次女本人もどっちでもよくなったみたいで、そっと手のひらを上に向けてパパの方を指す。長女に気を使って、小さく「イェーイ」とは声をあげて次女を抱きしめる。長女も演技をしたことに満足して、結果はもう興味がないらしい。平然としたまま。
いまいち盛り上がりに欠けたが、翌日。またお風呂でこの下りがやってきた。面白かったのかな。その日の演目は眠れる森の美女の森で「アー、アアアー」と「ア」だけで歌い出すあの下りを真似しなさいというもの。今回は長女が勝てばいい。真面目な長女に対し、ぼくはふざけた演技をする。
どっちにも泣かないかを再度次女が点検したあと、数回の演技で結果が出た。差が歴然としているからね。手のひらを上にして、そっと手を長女の方に向ける。
「ウェーン」とぼくが泣いたふりをすると、次女は不意打ちを食らいびっくりした顔ですぐさまこっちを向く。ぼくがほんとうに泣いてないことを確認すると、真顔に戻って「泣かないといったでしょうが」と冷たくあしらわれた。