はじめてのジャンプ

ここ数回、息子は学童から直接スクールバスに乗って水泳に通っている。新しい水泳キャップを自分で買わなきゃなので、その分のお金を持っていった。

家に帰ってきて、水泳帽と一緒に分厚いジャンブも買ったとよろこんでいる。水泳スクールの入っているビルには本屋もあって、ついでにお小遣いで買ってきたそうだ。正確にはお小遣いはあげていなくて、日々のパパの背中マッサージ1回100円による収入である。

聞いてなかったので驚いたけど、ぼくもジャンプを買ってもらいはじめたのは同じくらいかもしれない。おじいちゃんの家の近くの酒屋で、毎週火曜日発売だけどその店は月曜日に売ってくれて、1日早く読めるのがうれしかった。月曜日が楽しみだった。

息子の買ってきたのは月刊のジャンプで、すべてのマンガを噛みしめるように1ページ1ページを何回も呼んでいる。つい昨日も読んだギャグ漫画の同じところでまた同じような声を上げて笑っている。

「前読んでわかっているのに、笑っちゃうの?」

「うん。」

幸せそうである。

ぼくは自分のお金で買ったわけでもないし、好きなマンガだけを読んで、そうでないものは読まなかった。少年時代のぼくに比べて、誠実にジャンプに接しているし、ゲームもテレビもない彼にとっては極上の娯楽なのだろう。

昨日もトイレに持ち込んで読んで、出てくると「あー来月のキャプテン翼がたのしみだ」といっていた。

 

小学校5年のとき、先生に呼び出されたことがある。今思うと、教育ママだった母がマンガばかり読んでまったく勉強をしなかったぼくを見かねて、担任の寺田先生に相談したのだろう。放課後に寺田先生に「ちょっと残って」といわれ、屋上につれていかれて一対一で話をしたことがある。数十分だけど、妙に覚えている。

「マンガばっかり読んでるんか」

「うん」

「勉強しないの?」

「マンガ家になりたいし。勉強よりもマンガがいい」

「そうか。でもな、はらたいら、知ってるやろ。クイズダービーの。」

「知ってるよ。いつも1位やね」

はらたいらって、漫画家なんだぞ」

「え、そうなん?」

「そう。漫画家になりたかったら、マンガ好きなだけじゃだめなんだ。いっぱい勉強して、物知りでないと、面白い話は書けない」

「へぇ。」

このときの先生の優しい口調の「はらたいら作戦」は、当時のぼくにとってすごい強烈で、ものすごい説得力があった。そういえば、その話のあとくらいで、ぼくは田舎からバスに1時間のって市街地の塾に通い始める。意識が、少し変えられたのだとおもう。

息子にも、いつか同じ話をするときがくるのかな。ただ、彼ははらたいらを知らない。誰がいいかな。