サンタさんへの手紙

「おれ、サンタさんへのプレゼント、変えるわ」
クリスマス・イブの2日前に急に言い出して、ゴクリ息をのみましたよわたくし。
クリスマスプレゼントへの執着は侮ってはいけなかった。

段取りミス。もう買ってますけど昨日まで欲しいといってたもの。
まさかトイザらスに2日連続で車を走らせるとは思わなかった。

ずっと「サンタに手紙をかけよ~」といっても書かずにいた長男。
やきもき。もうそこまで執着ないのかな。
リクエストは決まっていた。ドラゴンボールの影響で、オラ強くなりて~とサンドバックをご所望。
イブの前日から東京へ弾丸ツアーへ行くので、2日前にトイザらスに買いにいく。
クリスマス前のトイザらスは子どもが少ない。オトナばっかりで不思議なかんじ。

ちなみに、長女は「ソフィアの美容院やさん」とどこから仕入れたかわからないキーワードで親を困らせたが、さすがのトイザらス、それらしいものがあった。
次女のものは迷ってなかなか決められなかった。しゃべられるようになっても、まだ自分は何がほしいかがわからない。
しかも、長女が手にしているものはほぼ全部「自分も欲しい」と真似したくなり、お姉ちゃんから取り上げるお年頃。気を遣う。
自分のものより、お姉ちゃんのもののほうがお気に入りだったら、姉妹間の修羅場になる。クリスマスに姉妹でもめてほしくない。

最近、アナと雪の女王の歌を口ずさむようになったので、じゃあここはアナ雪関連にするか、と思うのだけど、2歳にちょうどいいのが、なかなかない。お姉ちゃんにピッタリのものが多い。「なんか違うな~」と回数にして5回、30分くらい店内をうろちょろ。
多分その日のトイザらスの品揃えはほぼ覚えたくらい見尽くして、悩んだあげく、いかにも抱えてるのが似合いそうなオラフの小さなぬいぐるみと、実用的な傘にした。傘はむしろお姉ちゃんが欲しいという可能性もあるけど、そっちのベクトルのほうがまだ収拾がつきそうだ。お姉ちゃんがゴネないように、もう一つ、ソフィアのジグソーパズルを購入してあげる。これでなんとかなるだろう。

そして準備は万端だぜ、と帰って夕食の準備をしていたとき、長男が学童から帰ってくるなり上のご発言。
キッチンに立って親子丼の具をつくってるぼくの横で、先にお腹空いたからと炊飯器からご飯をよそっている。
変更後のリクエストは何か、一応聞いてみる。
ドラゴンボールのカード。」
ベジットとか、ザマス合体とか暗号のようなカタカナの羅列。
ぼくの知らないドラゴンボールの世界がそこにある。それを持っているとイオンでゲームができるだとか云々。
友人が持っていて、ほしくなったみたい。この前は妖怪ウォッチで、もっとその前は戦隊モノだったなぁ。

にしても、今日買って、車のトランクに忍ばしたこのタイミングはさすがにショックがでかい。
あやうく「もう買っちゃったよ」って口を滑らしそうになる。
もう買い直す時間はない。ここは懐柔策に出て、今回は、諦めてもらおう。

「実は、もう、手紙、おまえ書かないから、父ちゃんと母ちゃんでサンタさんに代わりに手紙書いて、おくっちゃったよ。」
「え?!」
しばらく絶句。思いもよらないその返答に、顔がくもって言葉を失っている。
「なんで?!」
「いや、何回いっても、おまえ書かないし、もう間に合わないから、書いてあげようと思って。『サンドバック』って、書いちゃった。」
「・・・」

お茶碗をダイニングテーブルに運んで、白米を食べながら、か細い声で
「なんでそんなこと、するん?どこに出したの?」
どこに出した、う~ん、どうしよ。
「ゆうびんのポスト?」
と聞くので、「うん」という。

しばらく気まずい間があって、ついに泣く。
「なんで、去年までお手紙は靴下の横だったのに、郵便になるの?!」
と叫ぶ。

しまった。
記憶が甦る。たしかに、去年まではクリスマス・イブの前夜に、靴下のところに、手紙を置いておいたんだっけ。
だから本人は前日の夜までに書けばいい、と思っていたらしい。
頭の中にあるのは、どんなおもちゃでも、サンタさんは白い袋のなかに入れていて、いわば歩くトイザらスであり、Amazonでもあり、即座に対応が可能というイメージなのか。だから、変更だって直前でもOK。
次第に明らかになってくる認識のズレ。
それが急に郵便で事前に申請するシステムになって、しかも代理で出すなんて、混乱するのも無理はない。

「サンタさんも、準備があるやろ。ちゃんとサンドバックを準備してもらおうと、お手紙、出したんだよ」
「手紙出したって、フィリピンに?」
フィリピン?!なんだそれ。
「もしや、フィンランドのこと?!」
「あぁそう、フィンランド
ウル覚えしかできないところは、俺にそっくりや。
「そう、フィンランドに」
釈然としていない、というのがその表情が物語っている。
郵便のポストに入れたらサンタに届くのか、ということは父ちゃん住所しっていたのか、とかいろいろ訊かれる。
そういえばこいつの社会見学、郵便局だったな。やたらと詳しい。
「去年から引っ越したでしょ、だからさ」と別の切り口で説明を試みるも、東京からこっちに引っ越してきた去年も靴下のそばやったやろ、としっかり覚えていて畳み掛けられる。どんどん、追い詰められていく。ウカツに発言はもうできない。

「そもそも、ドラゴンボール、知らんやろ、サンタさん」
「知らんわけないやろ〜!あんな有名なやつ」と速攻返ってくる。たしかにもはやグローバルなキャラ、なんかな。
否定はできない。

そもそもの本音は「勝手にやるんじゃね~よ。」なんだろうな。
普段、子どもたちに欲しいものは買えていないし、長男はもはや親におねだりをしても買ってくれるとも思っていない。たとえ誕生日でも。
口にはださないけど、きっと我慢している。だからこそ、サンタさんは年に唯一の願いが叶うチャンスで、その思い入れの強さがこっちが想像しているよりも大きいのがわかる。

「おれ、いまから手紙、かくわ。こっちがほんものです、って。」
「え?今から出しても間に合わんやろ」
「でも、靴下のところに置いておく。そしたらそうか、っておもうかもしれんし。」

紙と鉛筆をもってきて、書き出した。
「お手紙を書いてごめんなさい。でも、ぼくがほしいのは、ドラゴンボールのカードです。」
会社でよく上司がいう「うちの部下が勝手なことしてすいません」みたいな書き出しになっている。

観念する。ここまでされたらなぁ。もしサンドバックがプレゼントだったとき、彼は喜ばない。
それがはっきりした以上、なんとかするしかない。

頭の中でトイザらスって返品できるんだっけか!?と、ドラゴンボールのカードってなんだ?!という疑問が駆け巡る。
フライパンの親子丼そっちのけでいろいろ段取りを考える。
妻が返ってきて、カクガクジカジカこうなりましたと一連の経緯を報告。
急遽翌日の午前、トイザらスに行くことを決める。
翌日。カウンターでお姉さんから返品の理由を訊かれ「ほしいもの、まちがえちゃって。」というと、優しく「そうなんですね〜」と笑って、無事返品ができた。しかも、次女の傘も1日たって割引になったので、その値段にしてくれた。
ドラゴンボールのカードのそれらしい商品を見つける。値段をみると、Amazonの方がだいぶ安い。
しかも、翌日配達で間に合ってしまう。ごめんトイザらス

12月25日の朝。彼はすこぶる喜んだ。もちろん、長女、次女も。玄関に飾ったクリスマスツリーの脇に届いた紙袋をみて、3人でワーキャー騒いでいる。よかったね〜とお互いいいあっている。この歓喜の顔をみるといろいろ奔走した甲斐があるというものだ。このクリスマスって企画ほんとにすごいなぁ。どなたがいつ、どこで始めたかしらないけど、ありがとうっていいたい。

今回のドタバタで、彼はまだ完全にサンタの存在を信じて疑っていないということがわかった。
ピュアな部分が垣間見れて、なんともかわいらしい。
「牛乳とカステラ、玄関においておいてあげなきゃね。たぶん食べていくやろ。」
前夜、祈るように手紙を置いたに違いない。

今日も近所の友だちの家へいって、カードを交換してくる!と雪の中、張り切って出かけていった。
来年は、どうなるのかな。まだしばらく父ちゃんは楽しみたい。