<立原道造 風景の建築/岡本紀子/大阪大学出版会/2021>
この本と出会えて幸せだ。美しい立原を美しく語った名著。立原への熱量、丁寧な資料収集とリサーチ、結語。すべてに圧倒された。胸が熱くなった。人生は、死と真剣に向き合って結晶するんだ。これまで興味があったにもかかわらず、共感することがわかっていたからこそ、近づかなかった天才・立原道造。ついにこの世界に踏み込んでしまった。全集を、長崎ノートを読まねばなるまい。そして彼を囲った室生犀星にも、改めて興味が出る。
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すくなかつたいくつもの風景たちが
おまえの歩みをささへるであろう
おまへは そして 自分を護りながら泣くであらう
(「晩秋」の一節)
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「日常の中の追憶」を愛しながらも、「もつと知らない世界、あたらしい夢が、もつと慕わしい」と熱く語っている。
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そこに住まう人々の姿を想像していたことが「あたたかい人の住む家」という言葉に表れたように思えてならない。
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この期に「石柱の歌」「晩秋」「午後に」といった詩篇が誕生したことは、観念としてではなく現実の問題として、死を強く意識し始めたことと無関係であるとは思えない。__
ヒアシンスハウスは希望と断念のはざまで揺れながら束の間に花開いた構想であり思索であったと考えられる。
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秋はあたらしい僕を待っています(「深沢紅子宛書簡」)
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「僕は、窓がひとつ欲しい。/あまり大きくなくてはいけない。(「鉛筆・ネクタイ・窓」)
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夕ぐれの 対話が 私をふたたびほほゑますまで(「[私は ちひさい獣のやうに])