リサイタルと観客

お風呂で長女が「唄がうまくなりたい。高い声出ないと、歌手になれないの?どうやって出るようになるの?」とのこと。「わたし、声が低いから歌手になれないかな。」

「歌手は高い声でないとだめだよね。でも今から練習すれば、大丈夫。」

歌のことは全くわからないが、予測で前向きにこたえておく。

そしたら長女はそれから絶好調でずっと歌い続ける。おそらくオリジナルの歌で「未来の扉をあけて、出かけよう。素敵な出会いがある」みたいな歌詞だ。「未来の扉をあけて」がメインフレーズ。延々と繰り返し歌っている。

次女は静かにだまって聴きながら、先にシャンプーと身体を洗ってあげることにする。シャンプーとリンスの間に口を開き、何か歌についてコメントするのかなと思ったら「その歌、長すぎない?」とはっきりと口にする。そういえば、もう10分は同じ曲を歌い続けている。次女らしい、的確な質問だ。いったいかれこれ、彼女は何枚の未来の扉あけてるんだ。

その質問には耳を傾けることなく、長女は引き続き未来の扉を開け続けている。ぼくは次女のリンスを洗い流しながら、笑いをこらえきれずに声を殺しながら笑っていると、長女も感づいてぼくの顔をみてくるが、歌が面白いから笑顔なんだというようにとりつくろう。引き続き、長女はお風呂を上がるまで、いや上がってもまだ歌っていた。絶好調である。実にいいことだ。