流行り

鬼滅の刃』というアニメが流行りはじめたそうだ。息子の友だちの話がそれで持ち切りだとか。息子はその話題についていけない。ただ一緒にいて、聞いているのだという。聞き取りだけで、なんとなくのあらすじを、ぼくの背中を寝床で踏みながら話してくれる。声色に力がある。彼の好奇心からいって、よほど見たいのだろう。

テレビも最新のゲームもない。息子はその手の流行についていけない。いじわるではなく、その方が彼や家族の時間の使い方として有意義だろうと思っているわけだけど、父ちゃんが小さい頃どうだったかを聞かれたら、そうではなかった。

「父ちゃんは、ファミコンもってたの?」

「持ってたよ」

「いいなぁ」

息子からしたら「フェアじゃない」と思うだろう。受けて入れているものの、親が思っている以上に我慢をしているのだとおもうと少し心が痛む。ニンテンドウスイッチは仲のいい近所の友だちはみんなもう持っている。友だちの家で集まったとき、彼だけ借りてやらせてもらっているのだろう。

 

友だちについていけないから、からかわれたりしないかも心配になる。

「大丈夫。おれが流行りについていけないの、みんなわかっているから。」

微笑みながらいう。同じように、そのあたりに疎い友人はもう輪に入らないらしい。でも息子の場合はその輪の中に居続けたい。友だちも寛容だ。

そのアニメだけでなく、歩いて友人二人と下校しているとき、その友人はタブレットでやるウィニングイレブンにはまっていて、ずっとその話で持ち切りだったそうだ。

「おれ、わからんなとおもいながら黙っている」

ぼくがウィニングイレブンは知っているというと驚く。

「やったことあるん?」

「ない。父ちゃんの友だちがよくやってた」

「いいなぁ」

またある日は、別の友人と帰っていて、その友人も流行りに疎いらしい。その時は何を話すか聞くと「おれたち、よくわからんよな」と分かり合っていたらしい。

流行りについていけないことを、恨んだ感じでもなく、悲壮感もない。仕方ないと受け入れながら、それぞれの友人とそれぞれ付き合って、楽しそうに、今日も学校にいっている。頼もしく救われる思いだ。

「アマゾンビデオに鬼滅の刃があるかな」といっていたので探してみると、トップにあった。でも、アニメではなく単行本で一気に読ませた方がよかろう。十何巻しかないから、彼なら4時間ほどで読むだろう。それを提案すると「面白かったら読むけど、そうじゃなかったら読まん。」と返ってきた。「キングダムは面白かったけど。」

 

そんなもろもろのことがあって、気になってたここ数日。ちゃんと説明したほうがいいとおもい、サッカー教室の帰りの車で、そのあたりの意図を語る。

父ちゃんは小さい頃、おじいちゃんとおばあちゃんに育てられたから、家でだいたいゴロゴロしてて、ゲームやテレビ、漫画で時間を潰していたけど、スポーツはソフトボール以外やってない。それでよかったこともあるかもしれないけど、ずいぶん時間を無駄にしたな、とも思う。本当にやりたいことをやったのか。それがベストではないとおもったんだ。小さい頃やっておくべきことは、スポーツで思いっきり身体を動かすことだったり、自分がやりたい習い事だとおもう。そんな思いから、習い事しかり、おまえにはやりたいことをなるべくやらせてあげているとおもう。ゲームを買う余裕まではないけど。

例えばスポーツは、あとから取り返そうとおもっても、なかなかできない。運動神経をあとから養うのは大変だ。ゲームやらテレビの時間は大人になっても作りたければできる。子どものときの自由な時間をどう楽しむか、その塩梅は慎重に考えた方がいい。何より、ゲームやらテレビは、刺激が強すぎる。大人が子どもの時間、そしてお金を占有しようと必死で考えて作られたものだから、子どもは我慢しようとしても欲しくなるように作られている。その扇動力に太刀打ちできないし、支配的なんだ。だからちょっと距離をおいた方が、子どもたちにとっていい。そのとき好きだとか、欲しいと感じたことでも、一年たったら忘れるだろう、それは本当の気持ちではない。

もちろん、それらをゼロでなきゃいけないということもないから、今度漫画を読めば、時間的にも効率がいいし、原作を先に読んだ方が、アニメもより面白くなる。何より、本は、ほどよい。本はインパクト強くなくて、流行り廃りもあまりないから。受け手が主体的に判断できる。本に夢中になる生活は父ちゃんが小さい頃、できるようになりたかったけど、できなかったこと。それができているおまえはすごいとおもう。本好きは生涯お前の身を助けるぞ。スポーツと同様、本もあとから読もうとおもっても、習慣になってないと、なかなかできない。想像力がついていかないから。

そんな話をする。予想の範囲だったのだろう、「ふんふん」と聞いていたが、時々首をかしげた素振りをしていた。それがぼくの話の内容なのか、見ているテレビのクイズ番組の答えへのリアクションなのか。いつもこのサッカーの帰りにやっているクイズ番組も、うまく支配するよう作られている。でも、首をかしげたのはぼくに対して言いたいことがあったからだろう。

 

自分の好きなものを推薦するというテーマで近々、作文があるそうだ。そこで鬼滅の刃も友人たちが紹介するだろう。キングダムにするのかなと予想したが外れ、「シャーロック・ホームズ」とのこと。

 

ぼくは小さい頃、週刊少年ジャンプを楽しみにしていた。いよいよその年齢になったかとジャンプで読んだらと勧めてみるが、友人たちはアニメのほうらしくまだピンときていないようす。「途中からじゃ、ついていけない。最初から読みたい」とも。

 

下校の相手は日々フレキシブルに変わっている。一人のときもあるらしい。それはぼくのころと違う。ぼくの小学校は決まった仲間やグループが固定的だったから。今思うと実に田舎臭い。とはいえ、下校中にすれ違う友人のランドセルをこっそり開けてまわるのは楽しいらしく、それは約30年たっても、その悪戯は健在だそうだ。

 

今日はサッカー教室のゲームデーで、4点決めたとうれしそうだった。