娘ふたりをお風呂に入れていると「パパ描いてあげる」と次女が曇りガラスのドアにぼくの似顔絵を書き始めた。にっこり笑っている。
「メガネ、わすれてた」と眼鏡をつけたす。
ただ、ぼくは坊主なのだけれど、短髪がツンツンである。なぜだろう。坊主の方が書きやすいのに。
「パパの結婚式のとき、ここにお花、ついていたよね」
左手で胸を指差している。右手は絵を描き続けている。
どうやら、寝床にある結婚式の二次会のときの写真の記憶をたどりながら、あのときのぼくを描いているようだ。たしかにあのときは短髪だった。
「ママは、白いドレスだったよね。両方の肩が出てた」
ぼくを描いたら今度は隣の妻を横に描き始めた。
「手袋してたよね」
「ああ、そうだね」
湯船につかっている長女が「ハンカチも持ってたよ」という。
「手袋はずして持ってるのかな」
「ううん、手袋と、ハンカチ両方もってたよ」と長女。
「あたまに、お花載せてたっけ?」と次女。
「どうだったかな、載せてないんじゃないかな」とぼく。
「ううん、載せてたよ」と長女。
よっぽど関心があったのだろう、ふたりとも正確に覚えている。
試着のとき、ティアラを載せてみたけど、あれだけでウン万円いうから、写真だけとってやめようといった記憶が蘇る。
たしかに、寝床でたびたび二人はその写真をマジマジとみてたし、こないだ来たママ友にも見せるという余計なことまでしていた。
それにしても、なぜ今すぐ横にいるぼくを描かないのか。全くの予想外であった。