ついに

昨日は妻が食事をしてきて帰りが遅くなるので、ひとりで3人の世話をする日であった。お昼すぎに息子が帰ってきて、ぼくがアイロンをかけながらみていた『シン・ゴジラ』に興味を示してむしろ彼がメインで観る。ぼくは野暮用で外出して戻るとまだ続いていた。やがてクライマックスシーンになりゴジラがやられるところで「かわいそう」と口にする。たしかに人間目線じゃなければ単なる虐待だ。この子は動物目線を持ち合わせている。その後公文をやりはじめたが「眠い」というので「んじゃ寝なさい」ということで寝床にいって布団を敷いてやり、寝かせる。「本もってきて」というので本を持っていくと寝床で読みはじめた。眠いというよりは公文からの逃避のようである。公文の国語の文章は奇しくも『甘えの構造』というタイトルであった。

その間にぼくは買い物と保育園に娘二人を迎えにいく。帰ると息子はウトウトしていたがまた本を読みはじめた。改修工事の残工事のための職人さんが来る。

夕飯の支度をしている間、息子も起きてきて子どもたちはワンピースのアニメを見始める。次女はまた「私はこの子」とヒロインを指名している。

夕食は手羽元の甘辛煮と刺身と味噌汁とトマト。ササッと作って食べていると義母から連絡があり、サザエと義父が釣った鮎を持ってきてくれた。鮎は先日のものから更に体長が大きくなり20センチくらいある。

お腹はふくれているだろうけど、せっかくなので鮎3尾とサザエの塩ゆでを追加で開始する。食いしん坊の次女は食べるだろう。

鮎とサザエができて訊くと「お腹いっぱい」となんと3人とも食べようとしない。この展開は予想しなかったけど、美味しくぼくが独占させてもらう。子どもたちにあげるのが精一杯で、甘辛煮もまだそんなに食べていなかったから意外に食べることができた。

お腹いっぱいというわりには、子どもたちにこれまた先日義母が差し入れてくれたフルーツヨーグルトがあったことを思い出して「食べる?」と訊くと全員「はーい」と手を挙げる。

何だそりゃと思いながらお皿に3つ取り分けて出すとベロっと美味しそうに食べて、ぼくの分はなかった。

食事を終えた息子が「おいしかったぞ」とシンクまで空いた皿を持ってくる。その一言でまた作ってあげようという気になる。

ぼくはこういう日は食卓には座らない。キッチンでそのまま食べてしまう。子どもたちの顔もみえるから別にコミュニケーションは支障ないし、ササッと食べてそのままいろいろ洗い物ができる方が効率がいいので、ついそうしてしまう。

そのおかげでそのまま3人とシャワーを入るとき、もう既に食器たちは食洗機の中に並び、洗浄スタンバイができていた。実に気持ちがよい。

そのまま3人をシャワーに入れて、娘二人の歯を磨き、ドライヤーをして、パジャマに着替えさせる。今日は長女は9時までに寝ると保育園で約束したそうだ。

順調に事が運び、8時45分には娘二人と寝床についた。左手で次女を、右手を長女を胸のあたりをトントン叩いていると、数分で次女が寝付いた。いつもは30分くらいグダグダやっているのに、実に珍しい。最短記録である。

一方の早く寝たいが寝れない長女はウトウトしつつもなかなか落ちない。その間に妻が帰ってきた。

結局寝付いたのは9時半ころだった。無駄がなく、滞りもない。これまで、ここまで順調に事が進んだことがあっただろうか、というくらいスムーズだった。

その後「待っていたぞ」と息子が着替え始める。今夜はクワガタ採りにでかけようか、というポロッとぼくが言った一言を覚えていたのである。

「もう寝たい」という気持ちがありつつも、他の友だちは父ちゃんと行ったという話をしているらしく、これに付き合わないと父としてどうなの、と自分を奮い立たせて付き合う。

近所のクヌギがいっぱい生えていそうなところを徘徊。星がきれいな日で、息子が「あれが火星」と教えてくれる。たしかに明るくて大きくて、赤くて近い。

他の子どももいるかとおもったけど、遅いからか、熊出没情報が出たからか、誰もいない。クヌギの樹を探しながら一本ずつライトで照らす。樹液が出ているところはあっても、いるのは小さなゴキブリだらけでクワガタはいない。前にも書いたけど、樹にいるゴキブリはやっぱり触りたくはないものの、単なる虫然としていて、そこまで嫌悪感がわかない。

1時間ほど探し回るけど収穫ゼロ。なかなか簡単には見つからないものである。年長からかれこれ探して5年になるが、まだ1匹も見つけられていない。ぼくがもう少しアウトドア人間だったらこういう残念な結果にならないのにな、申し訳ない。

もう22時半なので、帰ろうと駐めた車まで戻ることにする。途中に新たな細めのクヌギを見つけて、ためしに蹴ってみる。バサバサバサと音がする。足元を照らしてみてみると白い豆粒のような木の実がたくさん落ちてくる。

その中に、ひっくり返ったよく見たことがあるクワガタの影。もしやと思って「おい、これ」と息子を呼ぶと、4センチほどのノコギリクワガタであった。これはめでたい。

人生初収穫にとてもうれしそうである。思えばぼくも少年の頃、祖父の寺のある山出探したことはあるけど、見つけたことはない気がする。父子で初めてのクワガタゲットの日となった。

興奮しながら息子がクワガタを掴むと「いてててて」と痛そうな声をあげる。ハサミで挟まれたわけではなく、頭部と胸部のつなぎ目に挟まれたのだそうだ。

「こいつ、すごい元気だ」。痛がりつつも、声は喜んでいる。

虫かごは車にあるので、そこまでは虫編みに入れることにする。ようやく車について虫かごに入れると愛おしそうに眺めている。

家についてもよっぽど嬉しかったのだろう、早速妻に報告している。

さあ寝ようかと思ったが、妻が「火星を見ろ」というので「見たよ」と返すが「いや、せっかくだし天体望遠鏡で見てあげて」というリクエスト。

息子も限界かなと思ったが尋ねるとテンションが高めなので「見る!」とはりきる。

仕方なく天体望遠鏡を持ってきて、暗いところを探してレンズをあれやこれや調整して覗いてみる。火星は肉眼ではみえるけど、なかなかスコープでは捉えれず四苦八苦していると、ぼくの背後にいた息子はしびれをきらしてあくびを連発。

それでもなんとかスコープで捉えるところまでいって、覗かせると「あ、あった」というが言葉に既に覇気はなく「寝たい」というから家に帰ることにする。ちなみにスコープの中の火星は赤くなく、明るくて丸い白い玉であった。我が家の天体望遠鏡でも捉えることができて、スコープを覗く片目の視界いっぱいに、太陽の光を反射する白い玉。同じ境遇の星がここにもあるのだなと実感して、ものすごく親近感がわいてきた。

息子はその感慨までは浸る余裕はなく、家の布団に入ったら数秒で寝た。

子どもたちとたくさん過ごし、いっぱいのことをこなしたけど、アップアップすることなく、最後まで3人に優しく出来た。家事育児スキルの進化して、余裕ができてきたのだろう。最後の最後で上から降ってきたノコギリクワガタは火星からやってきたご褒美か。上出来の、楽しく、思い出に残る夏の一日であった。