夕焼けキャッチボール

「ねえだれか、キャッチボールしよ。」(長女)

水曜日の夕暮れ時。学校から帰ってきた長女がいう。もう外に出てボールを持ってスタンバイしている。「だれか」と彼女がいったとき、ぼくはセーフティネットである。ぼくがこの時間家にいることも来月からはなくなる。喜んでつきあう。

最初はいつもの大きめな水色のゴムボールを投げあっていたが、途中から「グローブでキャッチしてみたい」というので、家にもどって彼女にあうサイズのグローブを持ってきてあげる。ボールは硬式テニスボールにする。

たどたどしい手付きでグローブをはめる。それぞれの指の位置を確認しながら。

テニスボールを投げてみる。グラブにボールが入っても、ポンと外にでる。テニスボールはよく弾む。なんども最初はその繰り返しだが、笑顔で楽しそうだ。

何十回もボールを行き来させる。投げ方はむかし一度教えたのを忠実に覚えているのだろう、しっかりした球が飛んでくる。ときどき、あさっての方向にいく。

山に太陽が沈んでいく。空が赤くなる。一緒に「きれいだね」とみとれる。飽きずにいつまでも続けられる。とことん今日は付き合う。

途中で息子が英語教室に行くために一人自転車で発つ。

その姿になにか刺激されたのか、「自転車のりたい」と言い出すので、キャッチボールは中断して自転車でツーリングにいく。公園までいって、ぐるっと我が家の界隈を一周。公園で「メルと散歩に来たよね」と思い出ばなし。

家に戻ると満足したのか、すっと家に入った。かけがえのない時間であった。その日は長女はいつもよりも甘えん坊であった。