「これ、何?」と次女。食卓のぼくの席で膝の上に乗っかって、ぼくの背面にある名刺の束をみつける。
「お名前かいてあるカード」
横でこれまた膝にのっている長女が「名刺でしょ」と付け加える。
「『わたしはこういうものでございます』ってやるやつ?」
どこで覚えたのかピンときたらしい。
ぜんぶ漢字で書いてあって読めないが、うらやましいと思ったのだろう「私のもつくって」と言い出す。「自分でつくりな」といってみたら、早速おのおの紙にペンでつくりはじめた。ハサミで切って一枚一枚を仕上げる。
次女ができたものの一枚をくれたので、ぼくのものも渡して交換する。とてもうれしそうだ。
ぼくは社会人1年目に働いた建築設計事務所は鉄のルールがあって、名刺は1年生は持てなかった。住宅を担当させてもらっていたから、工事の現場がガンガン進む中で「まだ名刺無くて」は苦労した。でもその分、名刺をもらったときは、それはそれはうれしかった。そんな記憶が蘇る。