いい朝

いい朝だった。快晴で、道端にはなごり雪。久しぶりに次女を自転車に乗せて保育園にいく。長靴はぼくが持っていくことになり、彼女は白いいつものスニーカーを履く。

 

視線の一番奥、山並みの最後部に今日はくっきりと白い山の頂部が見える。なかなかない日だ。

「あそこまで、夏登るんだよ。もう登れるよ」

「ぜんぶ白い。雪、まだあるんだね」

「ずっとあるんだよ。夏でも残ってる」

「夏でも寒いの?」

「そうだね。寒いよ」

「そうなんだ。高くなるから、寒くなる」

「よく知ってるね」

「だって、空に近くなるから」

 

「南極って、ずっと雪あるんでしょ」

「そうだよ。寒いからね」

「南極、どっち?」

南を考えて指差すと「こっちー」と嬉しそうだ。

 

木を指差して、葉っぱが落ちてることに興味を示す。木には、葉っぱが落ちるやつとずっとあるやつの二つがあること、落ち葉は土になって、木や草が育つことなどを解説。

「葉っぱって、土になるの?」

「そうだよ。そうやって、回っているんだ」

「こんな丸?」

「ん?」

次女が右腕をピントのばして、人差し指でスイカくらいの円を描いている。

「丸いんでしょ」

「回っている」ということばで、円を想像したのか。

「うん。回ってる。」

生けとし生きるものすべて。

「地球は人間ためのものじゃないんだよ。動物や植物、みんなのもの。」

「ふうん」

 

飛んでいく飛行機を2つみつける。首が心配になるくらい、顔を水平になるまで上げて空を見ている。

低く飛ぶやつが南に飛んでいったあと、また高く飛ぶやつが北に向かって行った。高く飛ぶ方から、飛行機雲が2本の線で吹き出ている。2本を見分けがついているので、まだ視力はいいんだな。

ああやってゴーっと吹き出すから前に進んでいると説明すると「最初の低く飛ぶやつは出てなかったよ」とすばやく反応。

「どこにいくのかな」

 

保育園に近づくと「降りる」と自分の足で歩き出す。

道端のなごり雪をスニーカーで恐る恐る踏んづける。数日前のものだから、ジャリジャリ固い。

「こないだのスキーの雪はどうだった?」

「柔らかかった。」

氷と雪の違い。

「これみんな、水になるの?」

「そうだよ。暖かくなるとね。オラフもなってたでしょ」

「うん。でもエルサで魔法で、ずっとそこだけ冬にしてもらってんよ。」

 

「ねえみてキラキラしている」

雪の白い表面に、小さなガラスの破片をばら撒いたかのように、どころどころが、そこだけ輝いている。

「電気じゃないんだよ。この光」

「そうだよ。太陽の光」

 

歩いては次の雪、また歩いてはその次の雪。雪は子どもにとって、格好のおもちゃなんだな。

やがて、「わっ」と鋭い声がする。

案の定、スニーカーを雪に深くはめていた。

「だいじょうぶ。靴も白いから」と冷静さを強調。

「中にはいったんじゃないの」

「ううん。ゴロゴロしてない」

「あとから、冷たくなるんだよ。靴下」

「そうなの?」

もうすぐで保育園である。友だちのママが車ですれ違い、手を降ってくれる。それがきっかけとなって、そのまま玄関までたどり着く。たくさん朝遊びたくて、8時半に行きたいとリクエストされていたけど、結局9時前であった。30分強の楽しい散歩である。

 

昨日は降園時、スキーウェアを着たのか尋ねると「雪少ないし、ジャンパーでいいと思ったんだ」と着なかったとの報告。今日も長靴も必要なら履けばよい、という判断をしたのだろう。

手取り足取りもう先回ってしなくてもいいことも出てきた。自分で判断してるんだ。

 

保育園につくと、自転車にぶら下げていた長靴を渡す。自分でこれも持っていこうとする。我が家の最後の園児、いよいよ来年度は最終学年。この登園の日々も終わりがみえてきた。背中をみながら、あのゴロンゴロンしてた次女も、すっかりスッとしたお姉ちゃんになって、頼りがいが出てきた。

息子と長女は今日「6年生を送る会」の本番だそうだ。息子は来年、いよいよ送られる側。