ゴウタ

寝床にはぬいぐるみがたくさんある。その中の一つは、イケアで息子がまだ小さいときにかったダックスフンド風のベージュの犬のものだ。「ゴウタ」という名前がついている。息子は10年近くのつきあいになろうか。愛着がまだあって、寝る時も横にいる。

息子が先に寝たある日。

次女があとから寝床にいくと、ゴウタに枕と布団がしてあって、その横で息子は寝かかっていた。ぼくは息子より後、次女より先に長女と布団に入り、長女を寝かしつけながら様子をみている。

次女が「枕がない」といいはじめて、ゴウタの枕をよこせと息子にいう。

息子がエエ〜っとしぶると、「人形やん。」と次女。

「人形じゃないよ、ぬいぐるみだよ」と息子。

「あそっか。でも、生きてないやん」

「生きてるよ」

「しゃべらんやん」

「しゃべらなくても生きてるものもいる。ミミズとか」

次女、しばらく考える。

「ミミズは、小さいから声きこえんだけやよ」

と反論。

「大きくてもしゃべらん動物もおるよ。象とか」と長女が横槍を入れる。

息子も次女も少し考えて「象はしゃべるやろ」。パオーン。

「あ、そっか。」

長女も思い直して、また考える。

「キリンとか」と訂正。

「キリンって、なかんの?」と次女。

それぞれが、おのおの頭を働かせている。

結局、別の枕をゴウタに敷くためにぼくが息子にわたして、玉突きでゴウタのものは無事、次女に渡った。ぬいぐるみに生命があると信じる少年と、それを否定する幼児。微笑ましく、珍しい光景であった。