金言集

家の収納が手狭になったので、過去のノート類を捨てることにした。学生のときから休みになっては泊まり込んで、そのまま就職した設計事務所でのメモ帳を見返す。

当時、いっぱい怒られた。いま読み返してみると、ぼくのことを見透かして、足りないところを教えてくれようとしていることがよく分かる。捨てる前に、ここにメモっておく。感謝を込めて。それにしても「夜は先生とサントロペ」というのがよく出てきた。いまおもえば、光栄なことだ。

子どもたちへ。どんな仕事へ君たちがつくにせよ、参考になる言葉があるかもしれないから、いつか読んでもらえたらうれしいね。

 ___

「世界一を目指しても、口には出すな。」

「テーブルと椅子の高さは280ミリ。それからずれるとメシはまずくなる。」

「建築家がベンツの運転手つきに乗っていると、京都ではかっこいい言われるけど、大阪ではダメ。」

「学生は建築家をかっこいいと思っとる。かっこわるいんだよ、この仕事は。スターじゃない。技術者。」

「現場の常駐は仕事がないからバカになる。」

「仕事にスピードがなかったらダメ。」

「待ち合わせには15分前にいけ。現場監督は作ってくる人なんだから尊敬して大切にしろ。偉くなっても15分前にいけ。一生。」

「現場監督と左官屋を敬ったら、ベンツで現場は行けんよ。電車でいけ。そういう心がけが大切や。共同作業やから。」

「学歴は人間をバカにする。間違ったときだけ、ちゃんと頭を下げろ。絶対バカにしない。平等に見ろ。それが現場とうまくやるコツ。言いたいことを言わないのとは違う。頼んだ方から足を運べ。大阪の商人は頼むところを見に来る。」

「建築家はエリート違うよ。土建屋。」

「設計は頭違うよ。体力や。あと英語できないと話にならん。相手は外人だから。」

「偉くなっても人間変わるなよ。」

「怒り続ける間しか設計しない。」

「現場監督からすれば、設計者はむずかしい人。現場と設計者は平等だ。間違ったらすぐに謝れ。すみませんは潤滑油。」

「メンテナンス、給気、排気、コスト、電気配線、配筋。実際に建てる上で不可欠なものを検討していく。模型をつくる。それがはじまり。」

「メンテナンスフリーが大原則。」

「人はみな平等。現場を敬え。立場で物を言ったらいかん。設計者は偉そうにしている、アホばっか。」

「現場で決めたことは施主に全部言え。現場で金のトラブル起こらんように。設計者は金出せんのに変更しようとしちゃだめ。設計者の都合で変更したいなら金を出せ。やり直しは絶対だめ。権威で仕事するやつは現場から嫌われる。」

「樹に水やりする契約を警備員としとけ。枯らさないように」

「頭で考えろ。手で考えるのではない。デザインは最後。」

「掃除はしないと思わないといけない。ホコリがたまらないデザインをしなくてはいけない。」

「いつも現場には見積書持っていけ。お金はいつも大事。見積書で19,000円だったら、16,000円のものを買ってやらな。現場の利益も考えてあげないかん。心遣い。材料安く、コスト安くてもいいものは作れるよ。」

「設計者は頭いるよ。」

「現場から怒られまくれ。現場監督はお金を持っているから強い。」

「現場の人がやる気にならないと、いい建築は絶対できない。」

「自分の頭で考えんと。現場で汗流して働かないで、どうして設計事務所なんかいけんねん。現場の意見を聞け。普段考えてないと決定は遅くなる。向こうの意見の理由を聞いてから決定せんと。向こうの方が上なんだから。経験のある奴の話聞いてやらんとお前に何ができんのよ。現場はいいこと言うよ。でも時に安いの売りつけようとするけど。」

「時間を守る。10分前。相手の意見を聞く。そして自分の意見を言う。現場は人間関係で成り立っている。お前らの図面を形にしてくれるんやから感謝しろよ。現場の時間は絶対守れ。現場の人を敬えば遅れることなんてできない。社会人は時間厳守が大原則。」

「白い床は靴墨がつくからダメ。」

「雪と水は全然違う。雪はのっとる。いすわる。雪が溶けてコンクリートに水が入って鉄筋が腐るのが一番怖い。コンクリートと雪が触れないようにする。」

「おまえらは技術者や。テクニカルに質問に答えんと。黙るな。」

「みんなで建築はつくる。建築に失敗は許されない。永久に建っているものだから。ものの考え方が合わないと人間走らない。技術があっても。」

「頭が柔らかくないとこの事務所はやっていけん。技術的で理詰めでディテールは考える。すると設計できる。施主からの清掃とか天候とかの質問にビシッと答えられる。」

「建築は彫刻ではない。社会的産物。おまえは彫刻みたいな建築作ろうと思ってるのちがうの?それじゃダメ。社会の中で建築つくらんと。」

「建築は安全性が一番大事。機能性を考える。社会性を考える。歴史、伝統、人間の生活を考える。」

「人間の考え方を、この事務所では教える。俺は自分が正しいと思っていない。いろんな考え方があるわ。ただ、この事務所は俺の価値観を伝えていく。合理性、スピード、自分の考え。所員は50%は合わせる。もう50%は自分で考える。100%合わされたら気持ちが悪いわ。」

「トイレ。こぼすのは普通。ニオイが残るもの。床のディテール。勾配は急にする。人間の行動考えれば、ディテールは決まる。デザインは機能。」

アメリカ型社会はお金>好奇心。これからは好奇心>お金。」

「日常の中に美しいものはいっぱいある。それを見つけようとせんと。」

「日本は誇りを持って自然を大切にしてきたんだ、と胸をはって言えるように。世界に発信できるように」

「いい建築とは。建物を「育てる」ことに興味がある。建物自体は育たないが、使う人、守る人の心に根付いた、愛されて、胸をはってあの建物は私の原風景だといわれるような、記憶に残る建築はいい建築。そのためには建築それ自体でなく、環境としてとらえることが肝要。」

「1年間建築の勉強をした。ひたすら本を読んだ。365日。1日4時間しか寝なかった。学校に行きたかった。学生生活をしたいと思った。でもできなかった。でも諦めることだけはしなかった。」

「適正のないものは覚えない。好きか嫌いかが大事。平均的知識→点数→専門では適正判断しにくい。法学部、文学部、経済学部、どれがいいとか。建築はまだわかりやすい。センスあるかないかすぐに分かる。」

「半分は事務所、半分は自分。社会のルール、最低限は守れ。適性のないサラリーマンはかわいそう。」

「キレイと質が高いは別。最近はキレイなのばっかり。キレイばかり追い求めて、生命力がない。キレイにしておけばいいというものではない。整形美女は美女だけど、美人じゃない。Noman Fosterは質が高い理想を追求してるよ。形になる思想と技術がある。」

「建築は機転がきかんとダメ。設計者はいろんな問題があるなかで、理想をおっかけるやつら。教養は設計に何の役も立たないよ。でも持っておけ。学生の間に身に付けろ。技術は2年でつく。」

「施主も機転で説得する。理想を伝える。巧みな言葉はいらない。『これがしたいんです』とひたすら伝えればいい。」

「外の人に会うこと。コミュニケーションがすごい大事。相手に伝えれなきゃだめ。ただぼーっとつったんとんな。」

「学生は歴史と英語をやれ。したら建築できるようになる。ギーディオンは2回読め。」

「いい建築は素材とディテールがいい。しっかり選択している。ディテールを追求して質を上げないとだめ。これからは量ではない。質だ。すみずみ考えろ。」

「トレンディな建築雑誌は建築の質を落とす。空間を伝えきれていない。建築の興味をそそる反面、表面的で上滑りする可能性がある。ただかっこよさげに撮っているだけ。質を伝えてない。それは危険だ。あれで建築しようとする奴いてもいいかもしれないけど、建築してたらあれではダメ。建築は表面的な人間にはできない。難しくて、大変な仕事だ。そういう人が近寄れいないようにしておかなければいけない。チャラチャラした人間が建築をやってはいけない。」

「ミースは鉄だ。ディテールが面白い。ファンズワースとバルセロナ。しっかりしている。シカゴにはディテールしっかりしてないのが多い。きっとあえて弟子にやらせたんだろう。ベルリンのナショナル・ギャラリーはミース。」

江崎玲於奈は人生14歳から19歳が勝負といっている。建築家になるはどれだけいい建築をみるかにかかっている。大阪なら村野藤吾

「ジャンヌベルはコンセプトでグイグイ押している。頭がきれる。冴えるからえらい。それがパンチ力を持つ。だからそれで押せる。なのでディテールなくてもいける。類まれな造形力で押す。ゲーリーも同じ。」

「展覧会は実際に建つかどうかでなくて、こう建築をしたいと、形にして見せる第一歩を見せるもの。『これ、建ちますか?』という質問はナンセンス。建つかどうかより、建てたいかどうか。」

「頭がキレていいやつは粘りがない。粘りがないと。何十年も続けていれば発言権、発言力が出てくる。したら信頼される。」

「有限実行。力強く粘ってなしとげることが大事。そうしたら信頼が生まれる。日本では信頼が決め手。まちをつくりあげるのは、何十年もかかる。息の長い、粘りが必要とされる行為。」

アメリカは創造が大事。いっぱい儲けておしまい。これからは両方とも必要。」

「建築は環境。環境つくるやつが環境を考えないでどうするの。お金を投資して環境をつくることをし続ける。」

「ヤノさんはプロ。すみずみまでみていろいろ決めてる。建築の質を良くすることを知っている。」

「大きい話と小さい話同時に考えないかんのが建築。電話、給排水、電気、風呂、空調、警備、コンセント、照明、雨水、消火器、テレビのアンテナ。住宅でもたくさんある。コンセントもむずかしい。頭使う。ドアの裏にコンセントは置いてはいけない、とか。システムで考えろ。設計を刹那的にするな。」

「技術は2年で覚えられる、能力あれば。なければ一生無理。」

「仕事のとり方を考えろ。設計が大好きで、設計しかありません。それで突っ走れ。設計、建築に賭けているという姿勢が信頼を生む。仕事になる。」

「いまの時代、焦らないとダメ。会社は潰れるよ。スピード大事。駆け抜けろ。」

「建築の敷地、側溝の手前か奥か。府県によって違う。大阪は奥。プライベートとパブリックの感覚の違い。」

「『市民のために』なら、市民にまず見せて当たり前。対話を先にする。建築みて元気にならんと。知事とかが先だ、とかいって反対してくるやつらはバカ。」

「自分がデキると思わないこと。若いうちに苦労しない。」

「繰り返し建築をみて、模型をつくって、立体的に捉える。平面だけで考えない。考え方を持っていろ。感覚的ではダメ。」

「先を読め。ビジョンをもって行動しろ。これからの建築は難しい。もう作っちゃったから。建築は建物のデザインではない。環境をつくること。人間に対する愛情ないと家はできない。」

「学生と所員になっての一年半は教える。あとは教えない。あとはそいつの運と能力。今の時代、運がないとやっていけない。所員になっていつもまでも教えられていたら終わり。給料もらってんだから。月謝払ってるのとは違う。給料もらっている、働いているというプライドを持たないと。」

「プライドあってもいいけど、しがみつくな。仕事でプライド出せ。」

「気合いを仕事に託して、仕事みてもらったら、心が伝わるようにせないかん。それくらいプライドを持て。」

「17歳から設計事務所してやってこれたのは、いつも状況を考えていたから。さまざまな状況を考えた。コスト、使い勝手、建物の中、裏側、見えないところを同時に自分の頭で考えないと、建物はよくならない。コンピュータはそこまでできない。」

「現実があるから建築は面白い。いつも正確なプロポーションでかけ。コンピューターに時代だからこそ、手を動かせ。二桁どうしの掛け算までできるようにならないと。」

「手でつくることを通して寸法身につけて、おかしいなと思う感覚が大事。」

「これからの建築家は手を動かしているかどうかで分かれる。」

「下から上に意見が言うことがないと会社がつぶれる。」

「英語ができて、建築ができて、好きということと体力が大事。」

「建築家になるには、そこそこ頭が良くて、総合的にものを知ってて、一つのことを徹底的にやっていて、賭けていて、人間的な魅力があって面白いこと。」

「日本とアメリカの関係、カナダとアメリカくらいの関係にならないと。自衛隊の派遣をやめると、アメリカは日本からの輸入をやめたり、石油を売るのをやめたりする。物事はぜんぶつながっている。」

「住宅の設計はむずかしい。住宅を頼む人は、一番真剣。安くなればなるほど。2000万円で建てようというような人ほど。設計者は、住む人以上に真剣でなければならない。施主には考え抜いた案を渡さないといけない。たとえば、年をとったら、車で病院に行く。家に帰ってきたら、雨に濡れずに家に入れるようになっているか。トランクを開いて、荷物を取り出すスペースがあるか。トイレに入る入口の寸法は800ミリで足りるか。具体的なケースを考え抜け。そしてクライアントとの打ち合わせでは7割はクライアントが話をするようにしろ。話を聞いて、キャッチボールをうまく。一方向ではダメ。」

「おかしいな、と思う階段は寸法を図れ。2R+T=620。」
_____

このノートは学生時代のものだから、まだ基本的なことが中心だね。所員になってからのいわば実践編で心に残っていることは、また別の機会に伝えれたらいいな。