秘密の特訓

長女と次女の発表会の前日。

家族みんなインフルをなんとか回避できていた。あと1日。大事をとって二人の保育園を休ませて家で3人で過ごすことにした。午前中は絵を描いたりのんびり過ごた。だんだん外に行きたくウズウズしてきたようで「散歩いきたい」と言い出す。たしかに珍しくいい天気である。

ランチの時間だけど、「食べなくていい」というのでおでかけ。

二人それぞれが自転車にまたがり近くの公園までいくことに。次女は補助輪つき。まだ漕ぎ始めがうまくできず、進み始めないと泣きそうになるので、少しペダルを逆に戻して、水平にしてから漕いだら楽だよと教えてあげる。進むときもあれば、それでも進まないことがある。そうなったら先を走る長女が戻ってきて次女の背中を押してやる。実に甲斐甲斐しい。しっかりしたお姉ちゃんに目を細める。

ぼくも次女がスタックしているとき、近くまでいって背中を押すこともあって、ぼくも自転車にのっていて、手が届いて押す位置が肩くらいになる。そうなると重心に対して高いところを押されるものだから、どうもバランスが悪く、次女転ぶ。

「パパが押したせいで転んだやんか」と泣きそうになる。

自転車起こして次女に謝る。

でもこの1回だけでなくて、あとでもう1回同じように転ばせてしまう。おまけに指まで踏んでしまう。 

「パパに2度転ばされた」と恨み節を口にする。

「わざとじゃないのだけど、ごめんね」

「知ってるよ」

 

公園についたら二人はブランコ。次女を右手で、長女を左手で押す。広い公園のわりにさすが平日の昼間、だれもいない。普段、思いっきり大きな声ってなかなか出す機会なんてないので、これはいい機会だと、

「明日の発表会、大きな声を出すんだぞ。いま思いっきり声、だしてみな」とゆらゆら円を描いている二人にいってみる。

素直に二人は大きな口をあけて「ワアー」っと絶叫しはじめる。

子どもの声とは半径100mくらいにはゆうに届くだろうという声。だれもいないとはいえ、大丈夫かなと心配になるけど、「もっと大きく」と挑発する。とても気持ちよさそうだから。

特に次女には羞恥心もないから、大きな声でハラハラするくらい続ける。

「よしこれで、明日はバッチリだな」

ブランコを降りると今度は鉄棒にいって、長女の逆上がりをみてまだやれない次女は長女に背中を支えてもらっている。

そのあと滑り台を次女を前に二人セットですべり、自転車に戻って公園の中を一周する。途中でどんぐりがたくさん落ちているところで停車して、ポケットにせっせと入れる。

公園の道もゆるやかな坂になっている。次女は上り坂はなかなかまだ登りきれなくて途中でへばって「もういい。抱っこ」といいかけたけど、「最後、お家までちゃんと乗るよ」と励まして、背中を押しつつ進む。

家までの帰り道は長女が先にどんどん進み、見えなくなってしまった。帰りもやはり上り坂なので次女を押しながら進むものの、最後までまたがってなんとか家まで到着。

ふたりともが自転車でこうしてツーリング行けたのは初めてのことだ。

家につくと小腹が空いたようなので食べさせて、長女を公文に送り、その足で長男を学校まで迎えにいって、長男を家に届けて宿題をさせる。長男はこのあとスキー合宿にでかけるから、それまでの1時間で宿題を終わらせなきゃいけない。

そのすきにぼくは夕食の準備をはじめる。その日は街にいってぼくもシンポジウムを観に行くから妻が帰ってくるまでの間に夕食をつくらなくてはいけない。うどんにするのは決まっていたけど単なるうどんじゃつまらないから、鳥のあんかけを作ることにする。

あっという間に長女公文のお迎えの時間になって、再び家に帰ると息子の宿題も大詰めであった。まだ制服なので着替えさせて、ぼくはあんかけを仕上げていると、妻が帰ってきた。

「早くいくよ」

子どもたち三人を載せて、息子をスキー合宿に送っていった。

ぼくはバス停にむかう。

最後慌ただしかったけど、長女と次女とたっぷり時間を過ごせたし、家事もこなした上で外出できるし、充実した一日であった。あんかけ、好評だったし。