読書めも〜『ニーマイヤー 104歳の最終講義』

オスカー・ニーマイヤー著/アルベルト・リヴァ編/阿部雅世訳/平凡社 2017

 

戦争、軍の支配、国外追放、革命という激動の時代を生きたブラジルの大建築家が104歳で語った言葉。

 

「私は「建築は重要ではない」と生涯繰り返し言い続けてきた。建築はきっかけである。重要なのは人々の日常の暮らしであり、人間である。」

「『持つもの』と『持たざるもの』も、そこを通りかかるすべてのものが、その美の前で息をのんで驚き、感心し、一瞬立ち止まる。自分自身の中にあるなにかを、その美に反映させるために。」

「建築は、機能や使い勝手がよいというだけでは不十分なのだ。建築においては、美もまた、積極的な有用性を持つ、役に立つ要素である。美は、贅沢が許されるときにだけ付け足されるようなものではない。遠い昔に建てられたある教会、ある建物が、現在ではまったく違った用途で使われている。機能や使い勝手を変化させながら、今日まで現役の建築として生き続けている。このようなことがなぜ起こるのか。それは、ある時代の機能が永遠に残ることはなくても、美と、その美に込められた詩が、時間を超えて永遠に生き続けるからである。」

「未来の社会のガイドラインは、暮らしと教育を、最大限に尊重したものであるべきだ。子どもと若者のために良い教育は、社会のすべての基本である。
 しかしながら、そんな未来がまだなお遠い今日の都市の中で、非常に厳しい選択に直面している今の若者になにが言えるだろう。
 今日の若者が直面している最も深刻な問題は「孤独」ではないかと思う。彼らが成長する時期に彼らを導き、寄り添う大人が足りない。彼らを取り囲んでいる問題を共有しようという大人が足りない。
 力を合わせて共創する社会、誰もが等しくチャンスを持てるような社会、それを実現することは、今日の若者のたちのためにならされるべき最重要課題ではないかと思う。にもかかわらず、世界は、勝者にならなければ生きることすらままならないような過当競争の中へ、若者を押しやっている。ただ普通に生きてくらすために、なぜこんなにもたくさんの競争に勝たなければならないのか。
 この状況に立ち向かうためには、若者たち自身がまず、偏見を増長させることなく、世界の誰もが自分と同じように生と死という同じ運命を持った兄弟であることを自覚し、競争ではなく、共創を目指すことを、強く意識する必要があるだろう。
 自分たちにはチャンスがないと言うかもしれない。でも、それぞれが自分の小さな役割を果たせばよいのだ。自分なりのリスクを背負い、自分の考えを持ち、自分の未来を発明する。それだけで、世の中は変わるはずだ。
 今の若者にどんな言葉をかけようか。
 そうだ、私はこう言おう。『なんでもいいから、やってみなさい。どんなことでも!』
 小さなことでいいのだ。でも、やってみなければ。私も、若いころからリスクを背負ってやってきた。」


「まず、自分の中に未来を想像することだ。そして、実際にやってみなくては。おしゃべりは役に立たない。冒険をし、私たちにそれができるということを見せつけるのだ。」

「104歳という歳になって人生を振り返っている。世の中は邪悪で、生きることは戯れごとではない。
 人生は短い。ほんの一瞬だ。
 (中略)
 人生は、つまるところは良くないものに立ち向かいながら生きる体験なのだと思う。
 (中略)
 人生は一瞬だ。それゆえに私達は学ばければならず、また、礼儀正しくそこを通過しなければならない。自分自身の考えと信念を培い、自分の信念を自らの中に不動の大黒柱のように据え、生きる間、それをずっと担ぎ続けて歩くのだ。これは大きな挑戦だ。」

「104歳という歳になっても、私の中ではいつも自由が躍動し続けている。それがいつもあった場所、空想する頭の中で。自由な空想からすべてが始まる。ときには感傷的にもなるし、人生の短さを自覚してもいるが、私の空想の喜びは留まることがない。自由な空想は人生と理想をしっかり結びつけてくれるし、いつも良き友に囲まれるようにしている。
 このスタジオには毎週火曜日に若い友人たちが集まってくる。最近の集いでは、プラトンアリストテレスの哲学について語りあった。ギリシャの哲学者たちが立てた「問い」について語りあった。人生について。善について。美についての『問い』。さらに、星についても語りあった。ギリシャの哲学者たちは、天文学―星の世界の調和をとても重要視していたそうだ。」


「また、今の私の興味は、もっと根源的な『問い』にも向かっている。
 それは、生とはなにか、死とはなにか、という『問い』だ。
 死を恐れることに意味はあるのか。それは避けられないものだし、誰も死にたくなぞはない。でもときには、それは必要なのかもしれない。
 私のように長生きする秘訣は何か、よく聞かれる。私自身は、104歳まで生きても人生そんなに長いものではないと思っている。人生は短い、ほんの一瞬だ―と心底思っているのだが、あえて答えてみよう。長生きの秘訣、それは食べすぎないこと。ちゃんとした食事をすること。一杯のワインを欠かさないこと。そして腹八分で食卓から離れること。」