手仕事

一日限りのランドセルの見本市がやってきた。手仕事で作る丁寧なライン。まだ生活に余裕があった東京の頃、息子に買ってあげたもの。今の生活ではその余裕はないが、差がつくのも心痛いし、そのランドセルの質感が好きなので、長女を連れていく。

驚いたことに、地方のホテルの宴会場にびっしりと家族連れが芋洗い状態で押し寄せている。エレベーターも長蛇の列。申し込みも長い列。何百と今日だけで注文が入る模様。みんなよく見本市があるのを知ってるかというと、webでの告知らしい。すばらしい営業効率。

手仕事で丁寧につくられたランドセルには懐かしさと温かい感じがあって、工業の匂いがしない。小学校って工場みたいだから、少しでも人間らしさみたいなのが背中にはあってほしい。だから高くても買ってあげたくなる。そしていざ実物を目の前にするとやっぱり、いい。

長女が選んだものは、いろんな色や素材の豊富なバリエーションのなかで、びっくりピスタチオグリーンなる薄い緑色のものであった。行く前のパンフレットではラベンダーが筆頭候補だったけど、軽々とそれを超えた。濃い紫や紅色や茶色もシックで落ち着きがあっていいとおもうのだけど、見向きもしないし、もうピスタチオ意外は受け付けませぬ、という頑なさ。意志は固い。

6年間この特徴的な色彩への好みが維持するのかいささか不安ではあったけど、まぁ今の喜びに水をさしてまで他の色を進めるのも気が引けるし、これが彼女らしさを表す色になっていくのかもしれない。親父がとやかくいう話じゃないと腹を括って何もいわないことにする。

妻が「6年生とか大きくなったほうが似合う色かもね」と前向き発言をする。ほんとうかな。ひとつ見本市で惜しかったこと。みんな当たり前だけど小学校前なので、どのランドセルを担いでみても愛らしいし、カワイイしなんでもいい気になってくる。ぜひ6年生サイズのマネキンを置いておいてほしかった。6年生になっても似合うかシミュレーションをしてみたい。

とまぁそんなことを考えながら嬉しそうな長女と一緒に会場を出てポチッとする。届くのは1月らしい。約8ヶ月間待つ。そしてその頃には長女はもう小学生間近。会場での試着のランドセルですでに目頭が熱くなってしまったので、もう本番では涙腺は決壊しつづけているのだろう。

それにしても、時代が進むほど、ますます手仕事の価値は高まるということを実感。AIうんぬんいう昨今、AIが人間に取って代わるというのは極端なケースで、多くの場合は間違いだと思う。人間ならではの価値をより顕在化してくれるのだと思う。