長女がいきなりぼくを「ねぇヒロシ」と呼ぶ。「パパ」というと「ヒロシでしょ」とたしなめられる。おもちゃで使っている旧い携帯電話を渡される。
「電話するから」。
少し距離を置いたところから「ピリリリリー」と彼女の声の着信音がなるので、「はいもしもし」。
「ねぇヒロシ、会いましょ」
「お寿司食べに行く?」
「行くいく!」
「じゃ、駅の前で待ち合わせね」
「わかった。じゃあね〜」
というやりとりをしてから、ぼくのそばに来てお寿司を食べるふりをする。
「おいしかった〜、じゃあね〜」とそっけなく元の位置に帰ってゆく。
「また今度ね、今度はお肉ね」。
またぼくのそばにきて、お肉も食べにいく。
「6時だから、もう帰るね」と去っていこうとする。
「もう帰るの?」とついいってしまいそうになるが、親の目線としてはそのほうがよいから「門限は大事だね」と帰す。
でもまた戻ってくる。
「ヒロシともうちょっといる」。
妙にリアルなやりとりでとまどっていると、
「ヒロシの家でお泊り〜」と楽しそうにいうので急にまた親目線に引き戻されて、「ママ、心配してるんじゃないの?」というと、「じゃ、帰るね〜」といって去ってゆく。
横でこの一連のやりとりを聞いていたママにこの軽さ、そしておマセっぷりに「少し心配なんだけど」とつぶやくと「大丈夫、ママのこと考えて帰ってくるでしょ」とこれまた軽い。そのあたりはママに任せるしかない。