冬将軍

昨日から雪がとまらない。積雪が1mに届きそうだ。昨日の朝はまだ大したことなかったので、傘も持たず、スニーカーで登校した息子は下校が遅く、近くまで車を走らせたら発見。手袋も靴もびしょびしょ、冷たすぎて痛いらしく、泣きながら歩いていた模様。急いで家に帰って、ストーブの前で温めながら着替えさせて、水泳のバスまで送る。水泳から帰ってきたらすっかり元気になっている。今日からバタフライを習い始めたそうだ。

今朝は息子は妻に送ってもらっていった。妻の車のタイヤはほとんど新雪に埋まりながら、道なき道をモソモソ進んでいく。タイヤの跡をみると積雪50センチほどか。

長女は今日自然体験教室ということで雪山に行くことになっている。サンドイッチを作って、水筒を持たせる。こんな視界も10メートルもないような猛吹雪だけど、決行するのだろうか。不安になるけど、きっとやるのだろう。長女は昨日からとても楽しそうで、「今日やるのかな」と不思議がっても「やるでしょ、雪山いくんだから雪降ってても」と実にポジティブだ。家族の場合だと腰が引けて中止にするような気候けど、先生たちは果敢に連れていってくれる。吹雪に吹き飛ばされそうになるのも新しい経験だ。ありがたい。

娘たちを保育園に送ってから家のガレージと玄関を雪透かしする。

新聞屋と郵便屋さんの深い足跡がある。ポストまで積もる雪をかき分けながら歩かせてしまった。

玄関から道路まで人の幅くらいで雪を除けて道をつくっていると、「すみません」と知らない女性から話かけられる。近くにお住まいの方ではない。

「スコップ、貸してもらえませんか。」

なるほど、女性の背後をみると完全にタイヤが雪の上で停まった車がある。

まだ除雪車が入っていない道に迷いこんで、そこでスタックしたらしい。

「このあたり、いつもこんなに雪、すごいんですか」

「まぁ、そうですね」

女性を車に乗せて、ぼくがそのタイヤの回りの雪を削るようにとる。

だいたい取り除けたので、動かしてみてもらうと、そんな甘くはないようで前輪は二つとも同じところをシュルシュル回転するだけで全く進まない。助走のスペースも必要そうだ。タイヤの前後もスペースでできるようにスコップを入れて雪を出す。

「すみません、家の除雪もあるのに」

「いえいえ」

それにしてもこの平日の昼間、まわりの家はほとんど空だ。たまたまぼくが除雪していたからいいけど、ぼくがいなかったら、彼女はどうなっていたのだろう。

そう思うとこの女性からしたらぼくはいま救世主だ。助けないわけにはいかない。

ひととおり除雪して、再度動かしてもらう。スコップを置いて、ぼくも車を押す。今度は1メートルほど動いた。安心したのもつかの間、その先のまた新しい雪にタイヤがはまり、またシュルシュル地獄に陥ってしまった。4WDでないから、前輪だけが頼りなのだけど、その前輪がすぐにハマる。

ここでゲンナリした表情をしたら彼女にまた気をつかわせてしまうので、淡々とまたタイヤの回りの雪を掻き出す。

脇を除雪車が通ってゆく。あと10分早かったら。

顔をあげたら、車の後方にトラックが止まっている。しまった道を塞いでいたかと気づいて、「先に通ってくれ」と合図する。ぼくがどけばトラックは通れる。しかし、待てどもトラックが来ない。運転席に目をやると、手でタイヤのほうを指して、ムリムリと合図している。

そのときぼくは悟った。この車の次は、あのトラックだと。

女性の車はタイヤの前後の雪をかき分け、押すことを繰り返し、無事に帰還できるようになった。

わざわざ運転席から降りてきてお礼をいわれる。「気おつけて」と見送る。「もう二度とこのエリアには立ち入らまい」と思っているかもしれないな。

そして、トラックの方に目をやる。ここで見捨てて家に戻ることはできない。

待ってましたといわんばかり、運ちゃんが降りてきて、「すみません、スコップ貸してください」。ついさっきも聞いたよ、この台詞。

業者のようなテンションになり、ぼくはスコップとともに後輪の前にスタンバイする。運ちゃんは運転席は乗せる。もう慣れたものだ。後輪の前後の雪を掻き取る。

さすがトラックのタイヤに踏まれた雪はかたくてなかなか崩せない。プラスチックのスコップが壊れそうだ。一度、家に戻って金属のスコップをとってくる。再度挑戦。雪というか堅い氷だ。トラックの後輪タイヤは2個ずつだから、計4個分のスペースをやる必要がある。エッサホイサ。

雪を除けて、運ちゃんがアクセルを踏んでを何度もやる。面白いくらいにタイヤは動かない。諦めずに10分くらい奮闘していると、ようやく動いてくれた。ニコニコの笑顔の運ちゃんをみるとこちらも嬉しくなってくる。JAFの仕事って、やりがいあるのだろうな。

「ここで、チェーンを巻いていきますので」と運ちゃんは後輪の後ろにぶら下がっているチェーンを外す。まさかこんな住宅地でチェーンが必要になるとは思わなかったのだろう。ぼくは「また何かあれば」といいながら家に戻る。「お名前は?」ときたら「名乗るほどのものではない」と答えるつもりだったが、訊かれなかった。

家に戻り、洗濯物を畳んでいても、どこか近くでまただれかスタックしているのではないかと気が気でなくなる。

これまで、友人知人に住んでいるところをいうとよく「雪、大変でしょ」と二言目に返ってきていた。今日の二人が食らっている洗礼をみて、その意味がなんとなくわかった気がした。

家にいても、ぼくだけが家のときは節約のためにつけないようにしている。いつになくアイロンが温かい。Yシャツ3枚のアイロンがおわると、また寒くなった。ダウンコートを着る。外は見渡す限り真っ白。おかげで室内はいろんな反射光のおかげで実に明るい。

朝空かしたところにまた雪が同じくらい積もっている。どこまで降るのかしら。週末は今年3回目のカマクラづくりをするのだろう。