駆ける背中

長男は朝学校に家をでると、前かがみになって一目散に走りだす。振る両手は伸びている。ランドセルと、さらにその上に学童のためのリュックを背負っている。

ぼくはその姿をみるのが好きで、歯を磨きながらキッチンの窓から見えなくなるまでその背中を見ている。あっという間に視界から消える。小学校に入学したときから、同じことをしている。あの頃はまだアパート住まいで、ランドセルを背負っているというより、ランドセルが彼を押しているようで、小さな足取りで、ゆっくり歩いては時々こちらを振り返って手を振っていた。今はもう振り返ることはない。

学校を楽しんでいることは何よりだ。学校は勉強とかを習うのも大事だけど、一番大事なのは社会との接続の仕方を覚えることだと思う。親ではなかなか教えられない。友達をつくる術、何をしたら喜んで、何をしたら嫌がるかをたくさん経験してほしい。

昨日妻から聞いた話。

外は雨雪が降って遊べない季節になった。走り回れない小学生の男たちは散歩に行けない犬みたいなものだ。ストレス発散のための妙薬なのだろう、学童では卓球ができるようになった。

喜んで息子たちが同級生と卓球を楽しんでいたところ、一つ上の学年から「おい俺たちに変われ」と言われた。「いやだ」と抵抗したけど「おまえら、最初からずっと遊んでいたのだから変われ」と要求される。ごもっともである。

それでも粘って「じゃ、勝負して決めようぜ」となって、それぞれ一人代表者を決めて試合をしたらしい。息子の友人で一番運動神経がいい奴が代表になり、そして負ける。

悔しいけど約束だから譲ることにしたら、上級生たちから「やっぱり一緒に遊ぼうぜ」となって結局二学年一緒に遊んだらしい。

いい話だ。ケンカにならず、上級生たちも優しい。息子たちも上級生になったらできるようになってくれ。その一連に口を挟まない学童の先生もやるな。ただ放っておいているだけな気もするけど。

ちなみに学校の昼休みはサッカーの代わりに将棋をしはじめた。駒の一つ一つに名前を書いて息子が持ち込んだ。他にUNOをしたり、トランプをしている子もいるとのこと。ぼくの頃に比べて自由になったもんだ。「麻雀は?」と聞くと「あるわけないわ!」。まぁ一局が長いしな。