姫がいうから

結婚記念日くらい、晩御飯は普段いかない焼肉に夫婦間では何となく、なっていた。その日は次女が連休の東京ドライブの疲れか発熱と咳でお休み。ぼくが面倒をみていた。二人っきりで過ごしているので、「何食べたい?」とか何ともなしに聞いてみたら「焼きそば。ダイスキだもん」というお返事。焼肉に焼きそばないよな、とぼんやり。

妻が晩に長女を連れて帰ってくる。長男も帰宅。次女も大丈夫そうだからいざ焼肉、というときに次女が「どこいくの?」。「焼肉だよ」と返すと数秒間があいて、「焼きそば食べたいっていったんですけど。」と思い出して淡いクレーム。まさか昼間のやりとりをしっかり覚えていたとは。

急遽焼きそばと姫がおっしゃっていますと妻に伝える。

焼きそばを出す店で結婚記念日にふさわしい店を近所で巡るが、餃子の王将しか思いつかない。普段行かない度合いでいくと焼肉と変わらないくらいの頻度だが、「結婚記念日に餃子の王将か」と車中でやるせなくつぶやく妻の一言が痛い。内心「なんで次女にそんな質問したんだよ」という批判でもある。

「王将以外にどこあるかな」と車を走らせながらあの店この店考えるが決めてにかける。ふっきれたように「いいわ、王将行こう」と妻がいう。もう期待を捨てた、というのが伝わってくる。

王将だと、いいところもある。焼肉店とちがい、何の躊躇もなくメニューが頼める。結局長男が餃子をバカ食いして4皿頼んだ。出て来るのもなんでこんなに、というくらい早い。何より、子どもがいても気を遣わずにすむ。次女が水をこぼしても出禁にはならず暖かく対応してくれる。ただ、薄々そんな気もしたが、次女は焼きそばを出してもまったく食べなかった。数時間前に食べた卵かけご飯がまだ残っているのだろう。何度も「焼きそば食べな」というがまったく興味を示さない。これがもしも仕事の相手先だったら二度とつきあいたくない。とはいえ、他ならぬ娘なので仕方がない。最近はこの3人目に振り回されておる、それが今年の我が家の結婚記念日。

長女、次女が大きくなって、ママが昔、結婚記念日に餃子の王将だったことあるよ、と振り返ったとき、「パパ、さいてーだね」とかいう日がくるかもしれないが、そのときは次女のご意向とご発言をいかに重んじていたかを伝えたい。