ごくらく

次女と長女を寝かしつける時間は幸せだ。ついでに最近はうつ伏せになって背中を長女と次女に踏んでもらいマッサージをしてもらっている。かつては長男がやっていたが最近は寝る時間もずれるし、体重も重たくなるし、立つと寝床に頭ぶつけるし、レギュラーとしてはきびしい。何より本人も積極的ではない。ときどきやってきて長女と次女を指導する立場になりつつある。

 

長女と次女は現役選手として快く引き受けてくれる。まずは次女が何回か背中でジャンプして、そのあとふくらはぎを両手でトントン。長女のやつをみて見よう見まね。すぐにやりきった感がくるようで、時間は短くて数十秒。重さも軽いのでほぐれることはない。けどいつかこの子も3代目になる布石。

「ありがとね〜んじゃ交代」と次は長女。ちなみに長女が先になることはない。押しの強い次女が「わたしが先!」と主張するから。譲るのも姉のたしなみ。

長女はほどよい体重で、時間をかけて首の下から背骨にそって肋骨のあたりまでじっくり足を前後にグリグリしてほぐしてくれる。「やわらかくなってきたね〜」。うっとりしてきて眠たくなる。「ありがとう〜。ごくらく。ごくらく。」とつい言葉がでる。

この何気ない一言を聞いていた次女。「ごくらく」の意味を知っているはずはないが、満足そうな父の顔をみて感じたのだろう。自分のときは「『ごくらく』がなかった」と寂しがって、だんだん顔がくしゃくしゃになって「『ごくらく』いってほしかった〜」と泣き始める。

正直、次女のあの軽さと短さでは「ごくらく」まではいざなわれなかったが、お世辞でもいうべきだったのか。

あわてて「ごくらくやったよ」とフォローしてもあとの祭りで、長女のマッサージは中断して慰めにかかる。「んじゃ、もう1回やって」といってもやらない。ストイックなまでに姉と同じ扱いを求めるハングリーさをなめてはいけない。

まだまだ「『ごくらく』ほしかった〜」と泣いている。極楽を欲する娘。漂う終末感。このシュールな状況についつい笑ってしまう。

それをみた長女は泣いた人を笑うというデリカシーのなさを感じとったのだろう、「笑ったらダメやよ」とダメ出しされて、父じゃアカンとおもったのか、犬のぬいぐるみを持ってきて、それをつかってあやし始めたら泣き止む。おねえちゃん偉大。

 

後日。その後、かならず「ごくらく」を次女にはひつこいくらい言ってお腹いっぱいになっていただいてから長女の番。長女の背中が終わってふくらはぎを思いっきりトントンやってとお願い。「いてっ!でもその痛いくらいがいい」といいながら続けてもらうと、また次女が自分のときは「『いてっ!』なかった」とおねえちゃんズルいといいながらベソをかき始める。次女の競争心はかくも厳密なのか。

同じ過ちは繰り返えすまいと素早く次女に交代してもらい、「いてっ」を献上する。もちろん痛くはない。

ほぐれる幸せな時間ではあるが、いささかの緊張感がある。