誕生日の一日

ぼくの誕生日。
長女と次女は保育園へ行き、インフルの長男と妻は休みで家にいることになった。
長男はすっかり元気。妻はまだ寝ている。

いい天気で気持ちがいい。長男は双眼鏡でトンビを追っかけている。溜まった宿題に手をつける気配はない。
ぼくはいつもどおり食器洗いに洗濯に家事をいろいろこなしていると、ピンポーンとインターホンがなる。

佐川急便。妻宛て。送り主はどっかの食器メーカー。
また通販で何か買ったか、だれかへの内祝いだろう。

寝ている妻に「お皿っぽいけど」と報告したら、「開けて」という。
どこまで?「お皿まで、出しちゃっていいの?!」というと「うん」という。
てこた我が家のために皿買ったの?いつのまに。
明日ゴミの日だし、ダンボールはすぐに捨てたいので、開ける。

中から丁寧に梱包されて「御祝」と熨斗がしてある箱が。
誰かにあげるもの?それとも誰かからの御祝い?混乱する。
「皿まで出せ」はやっぱり指示ミスだろう。
開けて後から文句をいわれてはかなわない。
「ちょっと!熨斗あるよ!御祝いって書いてあるけど、開けていいわけ!?」と聞く。
他にやりたいことあるから、ちょっとイライラする。

「そうだよ」といって、せせら笑っている。

「ん?」

あ。これ、ぼくへのか、とようやく気づく。

普段サプライズ全く無いので、最後の最後まで気づかなかったわ。
こないだ割れたお気に入りのコーヒーカップを買ってくれたらしい。

ぼくが笑っていると、事情をどこまで把握しているかわからないが、長男も笑っている。

枕元へ言ってお礼をいう。ぼくのまったく気づかないリアクションに、「あー面白かった」と笑っている。
素直にお礼だけを言えばいいのに、つい「本皮のバスケットボールもらえるとおもってた」と付け足してしまった。
「ひどーい」と言われる。そりゃそうだ。
完全に照れ隠しです、はい。
もったいないので、しばらく箱のまま、棚にしまうことにする。

家事が一段落して、暖かいので起きてきた妻も行けるというので息子と一緒に散歩に行くことにした。
久しぶりの外出。息子ははしゃいでいる。長女次女がいない3人家族は久しぶり。

家の周りの普段いかない山道をグルっと一周する小一時間の散歩コース。こないだは長女と二人で行ったコース。
途中であちこち回り道をしようとする息子。妻は付き合ってらんないと、道端に腰を下ろして待つ。
ぼくはついていく。小川をみつけたり、木の棒を拾ったり。アクティブ。
長女は主に道行く花に興味を示したのとは対照的だ。
途中、ふきのとうを一つみつける。母ちゃんに持っていこうと摘む。

母ちゃんにみせて、「天ぷらにして」という。
大事そうに両手で抱えて歩く。

神社による。手を合わせる。
急にふきのとうを、「カミサマにあげる」と言い出す。
「一つだけ天ぷらにしても、べつにお腹ふくれないし」とのこと。
「カミサマにあげるのも、天ぷらにしてからのほうがいいかな?」と気にしている。
「カミサマのお腹は神の胃袋で、生でも大丈夫や、病気にならん」
「そっか」
境内の賽銭箱の上にお供えしようとするから、
「そこじゃなくて、境内の前の土に還るところにしな」といって、外に置かせる。

帰り道も山道。
途中で2.5メートルくらいの立派な木の枝が落ちているのを発見。
「持って帰りたい」といいだす。
「んじゃ自分でもって帰れるならいいよ」というと、
「わかった」といってがんばって背負おうとする。
やっぱり、今日はやけにテンションが高い。
家までは大人の足でもあと20分はかかる。けど、意志は堅い。
秘密基地の材料にしたいのだそうだ。

山の上り道。やっぱりバランスを崩すので、片方を持ってやる。
妻はペースが遅いので先に行く。半ばあきれている様子。
第三者的にみたら、デコボコ親子が大きな枝を担いでいる。
「変な親子だわ、あんたら」と笑っている。
何組かの散歩している人たちとすれ違う。

ようやく帰宅。つくりかけの秘密基地にその枝を搬送。満足そうだ。

その後、温泉の準備をして、保育園に長女と次女を迎えにいく。
そのまま温泉にいく。山の中にある景色がいい露天風呂。
ここでも長男のテンションは高い。
露天風呂に浸かりながら、「温泉と、風呂ってどう違うの?」と聞いてくる。
パッとこたられない。
「風呂は沸かす、温泉は沸かさない」
「は?」って顔をしている。たしかに自分でも何を言っているかよくわかっていない。
「身体にいいのが温泉。よくないのが風呂」
これも「は?」ってかんじ。確かに。
「温泉は地中の深くのところから湧き上がっていて、それ、身体にいいんだって。水道水はそうでもない」
「深くのほうが汚そうだけど、なんでそっちのほうが身体にいいの?」
それもそうだ。

別の湯舟に、滝のように流れ落ちるところを見つける。「その下にいっていい?」ときく。
下に入って、手を合わせて「修行」をしている。
今日よく手を合わせてるなこいつ。
そんな調子で風呂から、出ようとしない。結局、女子組より長風呂をする。

出ると娘たちは先にいちごミルクを買ってもらって飲んでいる。
こっちは風呂で話をしていた楽しみにしていたコーヒー牛乳を買う。
長男が先に買って、次にぼくの番。
「おれが買ってあげる」というので、長男に託すと、間違って牛乳のボタンを押しやがった。
「おい!それ牛乳!」というと、手を頭にもっていって「あ、しまった!」と顔をしかめている。
ぼくが怒るとおもったのだろう。「じゃ、これ」と先にかった自分の分のコーヒー牛乳を手渡そうとする。
「いいわ、それはお前が飲め」といって断る。わざとじゃないし。

風呂上がりに牛乳を飲むのははじめてだ。どうなんだろ、と思ったけど、喉がぜんぜん潤わない。
息子が少しコーヒー牛乳を分けてくれるかとおもったら、全部飲みやがった。そういう機転はまだ効かないようだ。残念だ。

長女が「おんぶ」という。おんぶのまま、待合室の脇にいって、展示されている山の動物の剥製を見て回る。
テンとかイタチをみて、「かわい〜超かわい〜」とはしゃいでいる。

長男、いきなりその場にあった小学生むけの本を読み出す。
待ちきれないので、長女と次女と妻は先に車に戻るという。テレビを見たいらしい。

15分くらい、1冊まるごと読み終えるまで待ってやる。その間にいよかんを買う。
途中で「ねえここ、おもしれーよ」といって共有してくる。当該部分を音読して聞かせようとするけど、そこまで時間がない。
「だいじょぶ、父ちゃん読めるから。そのほうが、早いやろ。母ちゃん待ってるし」
「あ、それもそうやね」

車に戻る。「母ちゃん、怒ってるかな」と気にしている。
気になっても、本は最後まで読みたいものなのだな。

家までの帰り道、夕日が沈んでいく。
長女に今日、こないだ行った散歩コース、妻と長男といったと告げると
「わたしもいきたかった。」と少し寂しそう。
もっと寂しそうなのは次女。彼女だけまだ散歩行けていない。
話をちゃんとわかったのか「自分もお散歩いく」と言い出す。

夕食どうしようか。
「何食べたい?」ときくと、長男が「誕生日やし、父ちゃんぜったい寿司食うっていいだすとおもってた」
というので、それもそうだなと思って、回転寿司にいくことにする。
ぼくは忘れていたけど、去年も回転寿司にいったのを覚えていたらしい。
ぼくと妻は食べる量が減った。今日は安めかなと期待したが、結局は同じ。
ぼくらが減っても、長男が増えたようだ。成長期だと、どうなるんだろ。こわい。

散歩して温泉いって、回転寿司食べて、サプライズももらって。
インフルのおかげもあって、ゆっくり過ごせた。
実に地味だ。そして気づけば結局、長男が中心のペースになっている。妻と娘たち、そして主役のぼくはどちらかというと待たされている側。
でも、それでいい。
こうしておめでとうといってくれて、囲んでくれれば、親は十分だ。