拝啓ガリレオさま

昨夜、台風が我が家を通過した。晩までは夕焼けがとてもきれいで、これから台風ほんとに来るの?と訝しくおもっていたら、それは突然やってきた。風が強くなってきたのは、日が暮れたちょうど妻が帰ってきたときで、「きたぞ〜」と掛け声。まじかよ。夕食の準備の手を止めて玄関に降りて、家の周りのもろもろ、飛びそうか飛びそうでないかをチェック。鉢植え類などは土間にしまいこんで、自転車は予め寝かす。玄関のヨシズは端部が紐で結ばれているからまあ暴れてもなんとか耐えるやろ。庭木やトマトたちはがんばれ。子どもたちも何事だこれと、いつにない緊張感にソワソワしている。

昨日は自分が食べたかったので、カルボナーラにした。子どもたちと妻に先に出し、食べていると、「今揺れたね〜」といいあっている。ぼくはキッチンでいろいろまだしているので、立っているとわからない。「パパ、揺れたのわかった?」と聞かれても、「いや、わからん」というと、なにこのノリのわるいやつ、みたいな空気になる。我が家で一番いまホットな話題はこの揺れですよ、あなたその流行についてきてないの、ダッサ〜みたいな。でも立っていたらなのか、もともと三半規管が弱いのか、ぜんぜんわからない。彼、彼女たちは「揺れたよね〜」といいあって、怯えているようで、盛り上がってもいる。テラスに置きっぱなしにしていたこれは大丈夫だろうといってたぼくと妻の靴が一足ずつきれいに飛ばされてなくなった。テラスに出しっぱなしの椅子とテーブルも端っこまで動いてる。おおやばい。そそくさと家の中に撤収。靴は明日の朝探そ。

家は崖の上にあるから、吹き上げてくる風が凄まじい。家中がガタゴトミシミシいっている。そういえば、引っ越してきて我が家でこういう激しい天気になるのは初めてだ。だからこの家がちゃんと耐えてくれるのか、誰もわからない。妻は一番心配そうだ。「大丈夫だよね?パチッとかいってるんだけど」といちいち不安がる。木造ならではの、柱と梁がこすれあってる音かな。特にダイニングの大きなハメ殺しのガラス、われるんじゃないのと窓をみている。確かに、テラスに面した大きなガラスはベコベコと風で波を打ったようにしなっている。この画はみたことがないから、少しぼくもビビる。

とはいえ、一応一家の大黒柱然としなきゃというわけわからんプレッシャーもかんじ、ぼくは平然と大丈夫だわい、のスタンスを貫く。屋根とか壁とか、皮の部分はさいあく、めくれることはあっても骨の部分が風でなんとかなるのはさすがに想像しずらい。三匹の子ぶたでも、飛んでったのはワラの家だけだし。大工さんも工事のとき、「頑丈につくっておくし、孫の代まで大丈夫だ」と心強いことをいっていた。それを信じるしかあるまい。

家族たちは先に寝床に入っても吹き付ける風の音がすさまじく、落ち着いて寝られないという。普段の寝室のガラスが割れるかも、が気がかりらしい。ガラスが小さいロフトに移動して、今夜はそこで寝ることにしたら、落ち着いたのか、すぐに寝た。作っといてよかったここ。

一応、外に出て大丈夫かなと見て回る。中庭の風が渦を撒いて、枯れ葉だけをみたら竜巻みたいになっている。近くの工事現場からニューハウス工業のパンダをあしらった養生の紙らしきものが舞い落ちてきて、庭木にからまっている。玄関の2.5メートル四方くらいのヨシズは案の定バタバタと旗のように舞い上がっている。そのヨシズの動きをセンサーが感知して、自動点灯の照明が今夜はつきっぱなしだ。特に気になっていたのはゴーヤやアサガオ、キュウリが巻きついたグリーンカーテン。でも、季節が終わりなこともあり、葉っぱたちは痩せていて、そこまで風圧はかかってないもようで揺れてはいるけど、カーテンそのものが吹っ飛ぶことはなさそうだ。風は立ってられないほどではないけど、いろんなものが宙に舞って飛んできそうなので、外にいつづけるのは身の危険を感じる。そそくさと屋内に避難。風速は40メートルくらいだったらしい。携帯のニュースでは、21時頃すでに温帯低気圧に変わったとかいうけど、依然風は強い。22時頃になって、ようやくいつもの静けさは収まった。我が家、無事乗り切れたようだ。

ところで、天気予報では台風が「接近しています」という。よくわかってないのだけど、台風は南の赤道あたりの上空の気流の関係から発生して、それが偏西風とやらで流されて日本によくくる、とかなんですよね。一方で、地球も動いている。通常の天気予報は、あたかも地球は止まっていて、どんどん台風が動いているような言い方になっている。でも、どちらかというと「赤道付近で発生した台風十八号にむかって、日本が(地球の自転により)どんどん接近しています」が現実に近い表現だったりしないのかしら。主語が逆。そうなると、普段の「台風あっちいって〜」という天を仰ぐ受け身感覚ではなく、がぜん「おいどこむかって回ってんだ」とわれらが地球の大地目線になってくる。みんなで地面を一斉に蹴れば、少しはずれたりしないかな。むかしのゲーセンにありそうな、鉄の玉が上から転がってきて、板を傾けながら、途中の穴に落ちないようにするやつ、あの感じ。

もしガリレオが天気予報をするとしたら、どう表現するのだろう。気になりはじめた。「まあどっちも動いてますからね、わかりやすい方で」という大人な話なのかしら。