灯りを消したら

小さな我が家にはリビングなる部屋はなくて、二階にダイニングテーブルがドンとあるだけ。そこで家族はご飯を食べたり、本を読んだり、絵を描いたり。

小さなダイニングだけど、大きな正方形のはめ殺しの窓が上にひとつ、南向きにドカンと空いている。カーテンはない。ずっと空が見える。

南向きだから、太陽の動きに合わせて、朝は左から、昼は上から、午後は右から光が差し込んでくる。時々刻々変わる光の動きをみてたら、一日はあっという間に感じる。

雲の形や流れも日々ちがう。夏はもくもくとわたがしのような入道雲が存在感を放っててきれい。夕暮れ時に、雨雲が怪しく忍びよってくるのもわかる。しばらくしたらやっぱり夕立ち。今は鱗雲が綺麗。秋にわたがしはちぎれて伸ばされる。この窓があるおかげで、ダイニングに座ってても飽きがこない。

 

長女はこの窓から月をみつけるのが好き。昨夜は晩ごはんのときに半月か綺麗に出てた。大きな声でおつかさま、と指をさす。

電気を消してみな、といって、ダイニングを暗くすると、月が急に明るくなって、近くなる。部屋に入ってきたみたい。長女も長男も、わぁーと自然に声がでる。半月なのに、月明かりってこんなに明るいのか。

どんどん、月も動く。夕飯がおわり、お風呂に入り、さぁ寝ようというころには、もう窓の際にある。

子どもたちが一足先に寝たあと、癖になったコーヒーをゆっくり飲む。もう一度、灯りを消す。一瞬、闇になる。目がなれてきて、青白い光が身を包んで、身体が薄暗い闇に溶けていくようだ。目を閉じると耳も研ぎ澄まされてきて、スズムシにキリギリス、重なった虫の声も近くなる。外も中もなくなって、漂っているかんじ。コーヒーをすする。いい匂い。闇夜にコーヒーって、あうんだな。調子にのって、近くのブラインドも開ける。この窓は遠くの街を向いていて、うっすら夜景が望める。

 

この新感覚の黒い余韻に浸っていると、妻が風呂から上がってきた。このロマンを一緒に楽しむおもいきや、うわっ、いるのかよ、なにしてんの、とそそくさと電気をつけて、ブラインドを閉める。暗い部屋にこのおっさん、不審者にしかみえんらしい。

 

そういえば次女はなぜか最初、この窓からお月さまをみたら怖いといってた。我が家ではかぐや姫なんだろうということになっている。

 

暖かい太陽もありがたいけど、月夜の渋さもいいもんだ。秋が深まり、満月が待ち遠しい。

珍しがられるけど、思いきって、この窓をつくってよかった。コーヒーのせいで眠れず、寝不足だけど。