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昆虫テイスティング

長男を念願の昆虫館につれていく。

目玉はヘラクレスオオカブトと一緒に写真がとれるというやつと、カブトムシがいっぱいいる屋外展示。

いってみたらもうカブトやクワガタがアフリカやら東南アジアやら、世界中から集結していて、いろんな種類が勢揃い。ワールドカップみたいな様相を呈しておる。

同じようでいて、色も形も大きさも、デザインが一つ一つ違う。光沢感が似てるからから、高級革靴店にきたかんじ。スタッフの兄ちゃんも、子どもがそのまま大人になったような虫博士で、1つ質問したら10を答えてくれるかんじで興味がつきない。そのうち高い革靴売られそうだ。

カブトムシはツノだけど、クワガタはアゴらしい。ヘラクレスはツノを含むと世界一の大きさだけど、ツノを含まないとゾウカブトのほうがでかいらしい。

3本のツノがあって、黒光りするコーカサスオオカブトが一番凶暴で強いことは長男が何度も教えてくれた。図鑑で見てたアレと悲願のご対面。はしゃいでおる。

いいなぁ。目の前に自分のいま最も興味ある世界が広がってるから、その好奇心の暴発っぷりたるや、うらやましい。父ちゃんなら、なんだろう。スティーブン・タイラーがガラスケースの中にいる、みたいなかんじでしょうか。ヘラクレスオオカブトとの撮影なんて、憧れのアイドルとの写真撮影さながら。ちょっと前はヒーローショーだったりしたな、そういえば。いつのまにか今は昔。

父ちゃんが小さいころ、祖父の寺の裏に、早朝か深夜に捕まえにいった記憶はおぼろげにある。けど、バシっと捕まえた記憶はない。樹に甘いもの塗ったのを覚えてるくらい。祖父も体力的に、そこまではつきあいきれなかったのだろう。マムシも出るし。そいえば、マムシが出て、うぎゃーと怖がってたら、祖父が杖を刀に持ち替え、毅然と戦おうとしてたな。でも腰は完全に引いていて、とはいえ孫の前だから逃げるわけにもいかず「やぁ」って声だしてたような。上ずった声、引けた腰。それでも、なんとか頭を叩いて、仕留めてたな。かっこいいぜ、さすが戦争にいった男は違うと思ったものだ。普段の穏健派が、孫を守るため、あの日だけ武闘派だった。

 

おっさんになって、ぼく自身はいまはもう革靴よりもサンダル派なので、甲殻類のようなスターはもう眩しくて。この年齢になったからか、一番興味がひかれた虫は、「ナナフシ」でござる。その名のとおり、枝の節がそのまま虫になったような。動かなかったら植物、動いたら虫、みたいな静かないきもの。ヌボ〜なのか、ポエ〜なのか、宇宙からきたような、言葉にならない泰然自若のオーラを放っている。動きも緩慢そのもので、異なった時間の流れに生きている。ニルバーナ感。こんな雰囲気もった人、学年に一人くらいいたかもしれない。推測だけど、かなりエネルギー効率もよさそうだ。エコ生物。たいていのことは悟ってのだろう、世界全部がナナフシだったら、世の中さぞ平和だ。上司になってほしい虫ランキング1位。甲殻類は、いやだ。夜型だし。

 

カブトムシコーナーが終わっても、昆虫館はまだまだすごい。2mくらいのバッタの切断模型があったり、世界中からコガネムシを集めていたり、いろんな虫の声を聞こうという音声再生ブースがあったり、マニアックさの暴走が半端ない。カブトやクワガタは客寄せで、こっちの展示が本命、みたいな博物館魂を感じる。プロダクトアウト全開。

 

極めつけは、「昆虫の臭いを嗅ごう」のコーナー。

机から掃除機のホースのようなものが出ていて、先にはボンベのマスクみたいなものがある。机には15センチ大のクイズ番組にありそうなボタンがあって、このボタンを押すと、ボンベマスクに空気が送られ、虫の臭いをかげるそうだ。

3つあって、一つは「ナナフシの脇線の臭い」らしい。まじかよ。

マニアックさここに極まれり。さすがにナナフシのファンでも、脇の臭いまでは嗅ごうとは思わないです、わたくし。いわんやナナフシに興味が無い人。よくこれ社内の企画会議とおったな。机の下の見えないところで生け贄になっているナナフシを想像する。そこまでされても、ナナフシは動じないのだろう。ちなみに、もう一つのブースはその世界の定番、カメムシ

 

素通りしようとしたけど、長男は抵抗がないらしく、やろうやろうと乗り気。シュボシュボと勢い良くボタンを押して「くっせ〜」と大喜びしている。子どもの好奇心は果てしない。

父ちゃんも、かいでみろと勧めてくる。全く気が乗らないが、断るのもアレなので、接待先から頂戴したもう飲みたくないですよ、早くかえりましょうよ的な一杯の杯のように、「じゃ、1回だけ」とマスクを受け取る。

嗅ぐ。臭っ。なんだろう、草を抜いたあとに手につく臭いのような植物系の臭い。意外性はない。動物系よりはマシだけど、決していい臭いでも、ない。長男がいうには、王者カメムシよりも臭いそう。珍しいテイスティングして、それを話あっている。なんだこの体験。むかしの貴族の遊びかよ。

子どもの目線にならないと、ぜったい思いつかない、このぶっちぎりな企画を推し進めるロックンロール魂がこの片田舎の施設にあることにカンゲキしましたです。おかげで長男が背中を押され、ぼくにも新しい記憶ができたし。

この先、ナナフシの脇線の臭いはどんなのだったか、訊かれること、あるかな。「お客様の中に、ナナフシの脇線の臭いを嗅いだ方いらっしゃいますか」的な。もしもその機会があれば、積極的にお教えしたい。なかなか言葉にならないけど。