夏休みはじまる

黒焦げの少年が、夏休みになったと解放感に満ちた顔をして帰宅。全力でこいつと42日間過ごしてやろうじゃないか。

一日目。
案の定キャッチボールがしたい、ということで公園にいく。ボールがおちて、ぬかるんだ土がボールについて、「おいウ◯チつけんな」といったらヘケケと大喜び。「もう触れんわ」といって人差し指と親指で二本の指でそ〜っとつかむようになり、洗ってくるわとトイレにいく。戻ってきてまたボール後逸、コロコロ転がり草むらにボールいく。この時期の藪は深い。かきわけかきわけどこいったどこいったの末、小さい身体をつっこんだ息子がみつける。よかった〜これ見つからんかったらもう一生キャッチボールできんかったもんね〜。と安堵している。
 
学童の児童たちをみつけて、近寄って行って、遊びだす。キャッチボールの終了はあっけない。父ちゃんはそこでスイミングに行くバスが来るのをみはっとけ、と指示をしやがる。友達の前だと、なぜか父に強気。ということでぼくは交差点で立つ。息子は友達とワイワイ遊んでいる。蝉の脱皮をまた見つけた模様。バスがなかなかこない。息子と遊びにきたはずなのに、ただ交差点に立っている。なんなんだこの時間は。
バスがきて、見送る。仲のよい友だちがすでに乗っているので、こっちはもうむかない。前はずっと手を振ってくれたのにな。
 
買い物にいって、夕食の準備。妻が長女と次女連れて帰宅。夕食の支度のとき、長女と次女はテラスでキャッキャやっている。最後はモノのとりあいがきっかけでケンカになって、どっちかが泣く
長男のスイミングは今日が進級テストの日。25メートルのクロール。今まで3回くらい落ちている。ビーっと音がする。家の前でスイミングのバスが開いた音。息子が降りてくる。結果はどうだったか聞きたいが、あまり表情が浮かない様子。聞くのやめる。
「どうだったの?」
そんな遠慮をよそに妻が聞く。顔がニターってなる。「受かったの?!」と聞くとうんと頷く。「なんだよはやくいえよー、聞くまでだまってたな」と夫婦沸く。
すんなり受かってたら、きっとここまで嬉しくない。前の級も5回くらいかかってたし、決して向いてるとはいえないかもしれない。先に進んでいる友達もたくさんいる。それでも本人はめげるという感覚はないらしい。なら、どんどんやればいい。プールのテストって、みんな見てる静かななかで一人で泳ぐから、きっと度胸つくぞ。
 
ご飯食べたら公園にクワガタつかまえにいきたいと。こっちはもうヘトヘト。いってやろうじゃないか、と思うけど、支度中、疲れがでてきて少し不機嫌になってしまう。懐中電灯の電池がない。それでも行く?見えないぞ、といっても行くという。できればこっちは寝たい。でも彼にとってはワクワクの夏休み初日。わかったつきあうわい、と腹をくくる。ささいなことで怒らないようにしなくては。
 
道中、月が満月でみとれる。息子が「こうやったらさ、なんか月、とれそうだよね!」と虫網みを振る。おしゃれな表現するようになったもんだ。
 
公園に到着。こないだ覚えておいた、クワガタがいそうなクワの木のところへいく。この葉っぱの裏だぞ、って、全然真っ暗。全く見えない。しょうがないから携帯のフラッシュ使ってあげるかと出す。電池残量少なく、充電してください、フラッシュだめです、とのこと。むむう不覚じゃごめん。お手上げ。
 
「今日は無理やなぁ、帰ろう」というと、グズることなく、「そうだね」という。ものわかりがいいときほど、最近がっかりしてることがある。今夜はそんなかんじ。「単2電池、明日買いにいこうね」といいながら、さっき来たばかりの道を戻る。道路にバッタがいたりしても、今日はあまり食いつかない。
 
このままだとかわいそうだから、せっかくだし満月を望遠鏡でみるか、と誘う。サンタからもらった天体望遠鏡、まだちゃんと使ったことがない。家でセッティングして、近くの見えやすそうなところに移動。接眼レンズと望遠レンズとピントを合わせながら、月に焦点をあわせようとする、が、どうも倍率がおかしいみたい、拡大がでかすぎて、はみ出してる。ピントがなかなかあわない。横で息子やきもきしはじめる。レンズを入れたり出したりしていたら、ジョイントのネジが落ちる。あーもう。暗い中道路を息子とさすりさすりさがす。このままだとおわれないよな、と違う倍率の接眼レンズ、もってきてとお願い。わかった!と家にかけていく。
 
5分くらいして、かえってくる。これでいいんじゃない?とはめたら、よしよしちょうどいいかんじ。まんまるのお月さまがデカデカと顔を覗かせる。高いところ、低いところ、肉眼だと模様だったところが立体的にみえる。あれ、でももっとクレーターとかあるイメージだったけど、あんまりみえないな。
とてもきれいだ。サンタさん、ありがとうだね、といいながら「見せて見せて」という息子に覗かせる。ほんとだみえるね、といってからすぐに、眩しくて目から涙が、、といいはじめる。そんなことあるんかな。目、敏感なのかしら。結局、目が痛くてじっくり見ることできず、あまり盛り上がらずに帰る。もう眠くなっちゃったかな。
 
天体観測にしても虫とりにしても、照らされたものを見るか、照らして見るかの違いこそあれ、暗いところに光があたり、何かを発見するという行為。闇と光を使った遊戯。たぶん何千年も前からやってるんだろうね。
 
寝る前も「明日、単2電池買おうね」とまたいっていた。未練たらたら。
まだ、もらったことはあっても、彼、自分でクワガタ、つかまえたことがないもんな。この夏のうちに、ぜったい捕まえよう。