読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

寝かしつけの現場

今夜は妻が送別会だから、寝かしつけまで単独でやる日。最大の障壁は、イヤイヤ期に突入あそばされた次女、しかもまだ断乳できていない。

でも、だからといって彼女が飲み会の一つもいけないのは気の毒だ。これまで何回わたくしは育児中でも飲み会にいかせてもらったことか。家庭を経済的にすべて支えられなくなったいま、ここは一つ、俺にまかせろ、といえるようにならなくてはいけない。

てなわけで、なみなみならぬ気合いでのぞむ。

途中まで、いつになく完璧だった。

16時半に保育園迎えに行き、いつもは18時まで園庭でダラダラ放課後を遊んで過ごすところを、雨も手伝って、今日は17時に切り上げる。夕食はバカの一つ覚えで申し訳ないが、こういうときはカレーに限る。玉ねぎとルーだけがないことは確認ずみ、スーパーに走る。

途中、「うどんがいい」と長女いいだす。昨日保育園でカレーだったのは朝話題になった。それでもいいよと朝はいってくれてたのに、、カレーを望んだ兄に気をつかってたか。

道中、助手席の長女背中が痒いといいだす。片手は背中をかいてやりながら、もう片手で運転する。

スーパーで小さい娘二人は放し飼いの犬2匹連れているようなもので、どうしたもんかなと思案したところ、入り口に並んだ普段乗せないハンドルついた手押しバギー兼買い物カゴカート、こんなもの誰が使うんだと普段おもってたけど、今日は御幸が差した神アイテム!に見える。

次女興味示したからここぞとばかりに長女も押しこみ二人乗り。キャッキャやっておる。「もうすぐ、あーちゃん2歳だね」とお姉ちゃんらしいことを話しかけておる。

素うどんはさすがに物足りないし、これだから父ご飯は頼りにならんと思われるだろうから、肉うどんって何はいってたっけ、と思い出しながら、ネギとえのきと牛肉かう。長男ゴネそうだし、カレーの用意も一応買う。

帰宅。うどんの用意。長女は家の周り一周してくると外に出る。

うどんってカレーよりずいぶん楽だ!
長女帰ってきた頃には作り終える。途中で一緒になったそうで、兄も一緒に帰ってきた。どちらが玄関のドアを閉めるかでもめて、長女泣かされる。

泣く長女なだめて、うどん食べさせる。よく食べる。長男うどんでいいかと恐る恐る聞くと、カレーのこと忘れてたか、しぶりながら食べる。
トマト、糠漬けキュウリ、トウモロコシも出す。これでなんとか満たされるだろ。
長女、腕の辺りが痒いといいだす。とっとと食べちゃえ、風呂で汗流すぞといい、自分の分は立ち食い、風呂に湯を張る。

まだ18時半、われながらすばらしいラップだ。外はまだ夕焼けにもなってない。このままだと20時にはみんな寝ちゃうんじゃないか。

風呂に3人入れる。湯船に長男が仰向けにつかり、その横の空いたスペースを長女が陣取る。次女のスペースはないので、洗面器に水をはって簡易五右衛門風呂にする。
さっきの長女との火種はまだくすぶってるようで長男が耳をさわってきた長女に、「しーちゃん耳引っ張らんといて、耳ちぎれたらどうするん?」とわけわからんいいがかり。

さらにお掃除用霧吹きを取り合っている。相変わらず二人は険悪。「10分だけ私に貸して」と長女は長男に交渉、10分なんて長すぎだろボケ、と却下してるが、長女はまだ分という単位しかしらない。
長女のしつこさに屈したか、長男渡す。1、2、3と数えながら霧吹きを10回吹いて、長女返却。思ったより早く返ってきて、長男特につっこまず。

3人の身体洗いおわったところで、今日は風呂で歯を磨きます宣言をする。一堂エーッと驚きの声。

次女と先に出る。長男長女つづく。次々ドライヤーで髪を乾かして、パジャマ着せる。
これで、寝るまでの準備は整った。19時半。完璧だ。

ダイニングの窓から月を見つける。
もう今日は歯磨きがおわってるので、もう寝れます!というと、「パパすごーい、天才!」と長女。実に軽いノリ、しかし気分よし。

長男は公文があるのでリビングに残して、長女と次女と寝床へ。

まだ外は明るい。妻に20時には寝たと伝えることができたら、腰を抜かすだろう。

まださすがに眠くないんだろう、キャッキャ寝床で遊ぶ。ねっころがって、長女がパパ乗って、という。つぶれちゃうよ、といっても、いいから乗ってというから乗る。全然苦しくないよ、というと、次は次女が真似して「パパノッテ」という。つぶさないようにしつつ乗る。

20分ほどたって、まだ寝る気配はない。これでは遊んでるだけだ。外は暗くなってきた。

気分的にはもう寝かしつけの終盤だった。
育児した気になってた。
しかし、これはほんの序章で、これからが本番だった。育児は、そんなに甘くないと思いしる。

次女が「アー、アー」と指を指す。「アッチ、アッチ」といいだす。抱っこして運搬しろ、の指示だ。ダイニングに戻るという。従わないと、泣く。

不安そうな長女を寝床に残して、次女をダイニングまで運搬。長男が公文をしている。
ちょっと頼む、と次女預けて、寝床に戻る。長女を寝かしつける。次女のかまってかまって攻撃に、長男牛乳あげたりして対応する声がする。歯をみがいたのに、とはいいますまい。

長女、おねむのようすになる。そんなとこに、長男次女を抱っこして寝床に連れてくる。長男も相手つかれたんだろな。

次女、抱っこをせがむ。はい喜んで。泣きはじめる。眠たくなってきた証拠だろう、泣く道は避けてとおれないのは覚悟してたから、我慢してだっこしつづける。どこまで効果あるかわからないけど、耳を心臓に当てつつ、ユラユラ揺れる。これで寝てくれ。

しかし、「あっちいく」とまたダイニングに戻ると泣く。抱きながら移動するとみせかけて、連れてくと長男の邪魔にもなるから、途中で放置する。しばらくここで泣けばよし。放電すれば、疲れていよいよ眠くなるだろ。

パパは寝床にもどる。案の定、パパ抱っこと手を広げてこっちきたから、シメシメ抱っこして寝床に回収。

このまま泣き続けて、だっこしてればウトウトして寝る、はずだった。

あぐらをかきながら、抱く。揺らしながら、背中をトントンたたく。
目を閉じ大きな口をあけ、アー、アルファベットならAhhhhhと2回3回泣く。結構な大音量。目は閉じている。息を継ぐためにいちど泣き止み、そのときまぶたが開く。
それを延々繰り返す。こちらはもうすぐ寝るから、と辛抱する。

少し声が小さくなる。首の力がなくなってくる。よしよし、順調だ。
腰も痛くなってきたので、仰向けに横になり、次女をうつむせに、腹の上で寝かす。

うまくいけば、このまま脱力して寝付く。

はずだった。

お腹の上で、ムクッと起き上がる。目がパチッと開いている。

失敗だ。

育児界の業界用語で、着陸失敗、と私は呼んでいるが、抱いて寝そうな赤子をリリースして布団に寝かす、そのタイミングはかなりクリティカル。早く寝てほしい。といって、焦って早く置くと、すべてが水泡に帰す。

今回はそれを物語っている冴えた表情だ。

タイミング悪く、息子が寝床にくる。
「キタ!」と嬉しそうに迎える。
さらに、なぜがアンバンマンの浮き具が落ちているのを見つけ、拾ってきて、膨らませろ、とせがむ。

チューブに息を吹き込み、膨らませながら、また寝て腹の上に次女をのせ、さらに長男を腕枕のために片腕を差し出す。どう見てもこのシチュエーションで浮き具は不要だ。

長男も寝るとわかり、この瞬間だった、次女が、はじめて今夜、寝ようというコマンドに切り替わったのは。

「A h h h」と、さきほどより3割りほど増した大きな声で泣きだす。そのあと、「マンマー」を連呼。足をバタバタ。

長男、この状態になるとさわるものみな火傷するとそそくさと避難。離れて寝入る。

時間は21時。これまでのスムーズな流れは完全になくなり、ここからは彼女の体力がもつ限り泣き続けるエンドレスな消耗戦にはいる。我慢比べだ。腹をくくる。

これまでいろんな仕事をしてきたけど、耳元で、長時間Ahhhと大声で言われ続けることはこれまで経験したことかない。たとえ大事なクライアントであったとしても、うるさい!といってしまうだろう。

でも、うるさい!はここでは禁句。次女も、断乳の苦しみと戦っている。

それにしても、切ないのはママーと叫びつづけていること。パパじゃ、いくらそばにいても、だめなんだ。さすろうとしても、手ではねのけられる。

何回叫んだだろう、20分はたったか、よくこの轟音のなかで長女も長男も寝れるな、どんな耳してんだ。ミュート機能でも平成生まれはあるんかな。

号泣つづく。ママを呼ぶ連呼が長引けば長引くほど、みじめになってくる。
男親が育児なんぞ、土台むりがあるんじゃないか、と自信をなくす。結局、かわいそうなことなってるじゃないか。妻もこの状態をみたら、きっとわるいことした、と思うだろう。かっこつけて、ゆっくりいってこいなんていった自分が情けなくなってくる。

あきらめて、泣く次女をそのまま放置しちゃう、どうせ泣くんだし、というのも手だろう。そうしても仕方ないくらいの、無力な状況。

あるいは、いっそ家のそとにおんぶして出てくのも手か。よく親の変わりに世話してるおばあちゃんとか、夜泣きの赤子をおんぶして、夏の夜風に当てて寝かしてたりしてるような。いこうかな。なんかその絵面がいい。やってみたい衝動にかられる。でも、蚊に刺されたらもっと事態悪化しそうだし、虫除けどこにあるかすぐわからんし、長女もしも目覚めて親いないとパニックになるのも困るし、断念。

あいかわらず、腹の上で大きな口を開けて泣く。目は閉じている。

彼女にとってつらいけど、妻がいながらオッパイを断るより、今のチャンスは断乳の第一歩としてまだましなのかも。
気をとりなおして、おそるおそる、もいちどこのアツアツの焼け石に近づいてみると、手でこっちの指をつかみ、近づけようとしてくる。

そしたら、「マパーッ」と泣きながら、叫んだ。

「マパ……」少しだけ、パパを意識した言葉。パパがそばにいて、少し必要とされた気がして、救われた気分になる。

そうかそうかと、抱き寄せて、隣で横になる。向こうの口が、こっちの耳元にくる。死ぬほどうるさい。でも、いい。なんかクレーマーのようにみなして、早く終われー、と流してた自分が情けなくなる。親がそれでどうする。彼女は朝いってらっしゃいをしてから、今日はママに触れていない。一緒にその寂しさと戦ってやらなきゃいけないんだった。

依然、彼女は泣いている。時間は21時半を過ぎた。かれこれ、寝床に入って2時間。インターバルがあったとしても、1時間は大声でシャウト泣きしてるだろう。

それだけ、体力ついたってことでもある。生命力の証。成長してる。うれしいことだ。

こちらに気持ちに余裕がでてきたころ、終わりはとつぜんくる。10秒前まで大声だったのに、急に、堕ちた。

ずーっと耳のそばで音がなり続け、いきなりおわり、一気に静かになる。なんだこの感覚は!これまで感じたことないような静寂がきた。耳がツーン。鼓膜がおかしくなったみたい。鼓膜は依然震えながらも、空気を振動させていないような、真空の中で振動してるかのような。静かすぎて、でもその静けさを、今この耳は聴いている。こんな感覚はじめて。

直島のジェームスタレルの暗闇見続けて光がボワーっと浮かび上がるあれ、思い出した。

あの聴覚バージョンさながら、かんじたことがない静寂をかんじるためのアートだったんだとらえたら、すごい挑戦的な作品だなこれ。とか、なんか父ちゃん覚醒したかんじですよ今夜。

ママはまだ帰ってこない。だけど、何時になる?とは聞かないぞ。

3人とも、よくがんばった。明日ママに甘えたらいい。

父一人の寝かしつけの現場はかくのごとし。次は、虫除けをして外におんぶしにいこう。

広告を非表示にする