読書めも

発光病

佐野徹夜さんの、デビュー作『君は月夜に光輝く』を長女から「面白いから」と勧められて試しに読んだら夜更かし、一気読み。こんなおじさんがこんな瑞々しい若い子の恋愛に心打たれるとは。世界の中心で愛を叫ぶ、を思い出す。教えてくれてありがとうと長女…

星の王子さま

サンテュグ・ジュペリの『星の王子さま』は、戦時中に出版された。ひとつの星に一人ずつにした設定。そして空に消えた。悲しみ、残酷さ、大人の判断の愚かさ。それが凝縮された渦中に、こういう不朽の傑作が生まれる。逆境は糧になる証。人類の希望。原作は…

夕日と親

「夕日をみたら、親がそこにいるとおもえ。夕日の真ん中に、親はいる」という歌に出会う。 五木寛之著の『親鸞』にて。 親鸞聖人は聖徳太子に憧れていたのか。山から降り、だれとも分け隔てなく交わって、救済なさった。

タイムマシン

「この世はタイムマシンがあるとしたら、それは音楽だ」と藤井フミヤはいった。たしかに音楽は過去に連れていってくれる。 司馬遼太郎さんの小説も、幸せなタイムマシンだとおもう。映画になったものではいけない。自分が想像を働かせる幅が狭くなる。たいて…

平等

「人間って、ほんとに平等なのかな?」(次女) 夕食のとき。身体の大きさとか、得意なことの違いとか、生まれる家庭の経済力とか、そういうのは平等じゃないのではないかと。平等にしようというのは、機会の与え方のことだと伝える。 アメリカに留学している…

『あらくれ』/『パリ残像』

徳田秋声の『あらくれ』、木村伊兵衛の『パリ残像』。どちらも市井の人が主役の作品。日常、そこに生きる人々。年の功だろうか、これらに誠実に向き合う作品の良さがわかってきたし、それをテーマにした創作がもっとも高度だと思うようになってきた。インパ…

読書めも〜『建築の難問』

『建築の難問』/内藤廣/みすず書房/2021 一気読み。心にのこった内容。 ・建築を、建築家一人の仕事だと捉えるのはメディアの勝手だが、表面的な理解でしかない。建築家は神様ではない。実際は多くの名前が出ない人たちの尽力が、その価値を生み、建築を…

読書めも〜『Who Gets What〜マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学』

<Who Gets What〜マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学/アルビン・E・ロス著、櫻井祐子訳/日本経済新聞出版社/2016> ・ユダヤ口伝律法『タルムード』創造主は万物をつくったあとは、「縁結び」をしているといった。求愛と選別。・「ともに…

読書めも〜『白井晟一の伝統論と和室』

<白井晟一の伝統論と和室/羽藤広輔/中央公論美術出版/2021> ・「限られた瞬間に特定の人間のみに媚びる様に造った建築に永遠の形など現れることはない」 ・白井の造形における目的意識として、限られたその時々の機能的要請に応えることではなく、むし…

読書めも〜『怠け数学者の記』

<怠け数学者の記/小平邦彦/岩波書店/1986> ・物理的実在のほうが数学的なものよりもはっきりした実在であるという考え方が、すでにおかしいと思うんです。なにか数学的実在というものが根本にあって、そのうえにあらゆる自然現象が乗っかっているのだろ…

『カモと犬、生きてる』

「犬とカモ、買えるの?」(長女) ここ一週間くらい犬を飼いたいといいつづける長女。ぴったりの本を見つける。『カモと犬、生きてる』(水谷緑/新紀元社/2018)。作者はカモを10歳から33歳まで飼い続けて、犬も飼っていたそうだ。筋金入りだ。つい「…

読書めも〜『建築家の年輪』

<建築家の年輪/真壁智治編/左右社/2018> 槇文彦 ・私は、映画館に行くということは、一人の人間が、ひととき、日常とはまったく異なる体験に向かい合い、そしてその体験と感動の「余韻」を、見知らぬ人と無言で分かち合うものだと捉えています。(中略…

読書めも〜『重森三玲 庭を見る心得』

<重森三玲『庭を見る心得』/重森三玲/2020/平凡社> ・誰だって、自分の家ほど好きなものはない。どんなに遠方へ出掛けていても、用事が終わり次第、いそいで自分の家に帰る。どんなに立派なホテルに泊まっても、どんなに美しい友人やその他の家に泊まって…

読書めも〜『めるとみる ふしぎなせかいへ行く!』

『めるとみる ふしぎなせかいへ行く!』(長女/2020) あるところにめるとみるのふた子と、お母さんがいました。お母さんはめるに「おつかいいってきて」とたのみました。めるは「はーい。」といっておつかいにいきました。 いつもくる道なのにへんです。そ…

読書めも〜『りんちゃんとうみ』

『りんちゃんとうみ』(作・次女、絵・長女/2020) ある日、りんちゃんと、りんちゃんのお父さんとお母さんでうみにいくことにしました。うみにつきました。りんちゃんは、およぐことにしました。さいしょおよいだ時はおぼれそうになりましたが、なんかいも…

読書めも〜『思い出るまま』

<思い出るまま/徳田秋聲/2020/徳田秋聲記念館文庫> ・一体にこの国の人は積極性に乏しく、隠忍性に富んでいる。これは地理と気候と前田藩の制作と、宗教に訓練されたためで、大きな政治家も実業家も芸術家も出なかった理由である。その代わり辛抱強く仕…

読書めも〜『変われ!東京 自由で、ゆるくて、閉じない都市』

『変われ!東京 自由で、ゆるくて、閉じない都市』(隈研吾・清野由美/集英社新書/2020)を読んだ。 軽くて、柔軟で、前向きで、エネルギッシュな語り口。スーッと入ってくるのだけど、半分くらいは共感し、半分くらいはもやもや消化不良でひっかかる。 建…

読書めも〜『コルビジェぎらい』

『コルビジェぎらい』(吉田研介/自由企画/2020)を読んだ。 80歳を超える建築家のコルビジェへの、いやコルビジェを盲目的に称賛する人たちへのいさぎよい批判。本音であっぴろげだから嫌味でなく痛快だ。嫌いだとここまで詳細に調べて追求することもない…

読書めも〜『香山壽夫の炉辺暖炉−建築は人の心の共同の喜び』

<香山壽夫の炉辺暖炉−建築は人の心の共同の喜び/香山壽夫/建築ジャーナル/2020> ・しかし、そのことに加えて、建築の喜びには、もうひとつ、大切なことがある。それはその喜びが、たとえ自分ひとりの心の中から出発したものであるにせよ、その出来上っ…

読書めも〜『中動態の世界 意志と責任の考古学』

*スピノザ 自由意志の否定/「太陽がどうしても近くにあるように感じられる」*アリストテレス 10の『カテゴリー論』 *トラクス『テクネー』 「中動(メソテース)は、部分的に能動を、部分的に受動を示し、たとえば「pepega[私は[そこに]留まっている」…

読書メモ〜『100年の難問はなぜ解けたのか−天才数学者の光と影』

<100年の難問はなぜ解けたのか−天才数学者の光と影/春日真人/NHK出版/2005> ・「幼い頃は、自分のやりたいことをやって世界を体験し、色々なオモチャに触れることが重要だと思います。大人が言葉にしたり説明できることは、子どもが身をもって体験する…

読書メモ〜『金沢』

<『金沢』/吉田健一/河出書房新社/1973> ・併しそこにその街の金沢ならば金沢の歴史があり、それを知ることで歴史が生きたものになる。内山が偶然に金沢というものを発見してこれに魅せられたのはそれならばその歴史によってだったと言える。 ・金沢は…

読書めも〜『いたずらのすきな けんちくか』

『いたずらのすきな けんちくか』(原作 安藤忠雄/絵 はたこうしろう/小学館/2020) 「べんりじゃないもの。いっけん むだにおもえるもの。 すぐには こたえが わからないもの。 そういうものが じつはいちばん おもしろい。 そういう ばしょにいると、ひ…

読書めも〜『絶望からの出発』

<『絶望からの出発』/曽野綾子/PHP研究所/2012> ・私は戦争によって、死が、徹底して虚しいものであることを理解した。一度死に脅かされた経験を持つと、私の場合はもう自ら死のうとは思わなくなった。 ・教育の根本の姿は自らを教育し続けることなので…

読書めも〜『イギリスの大学・ニッポンの大学』

山本義隆先生が、予備校の最後の講義の最後にくれた言葉。「大学では、本当の学問を思いっきりしてください。大学生は遊ぶからな。でも、大学ちゅうのは、学問をするところだ」と前を向いて、真剣な眼差しでおっしゃっていたことを思い出した。他の先生が「…

読書めも〜『彼岸の図書館−ぼくたちの移住のかたち』

『彼岸の図書館−ぼくたちの移住のかたち』/青木真兵・海青子/夕書房/2019 ・農業をやっている人に聞くと、作物は自分の労働の成果であるというより、太陽と雨と土の恵みだというふうに感じるらしい。自然から気前よく贈与を受けている、という気持ちにな…

読書めも〜『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

<ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ブレイディみかこ/新潮社/2019> ・実は、英国の中学校教育には「ドラマ(演劇)」というれっきとした教科がある。(中略)日常的な生活の中での言葉を使った自己表現能力、創造性、コミュニケーション力を…

読書めも〜『岡潔 数学を志す人に』

<岡潔 数学を志す人に/岡潔/2015/平凡社> ・道義の根本は、ややもすれば自分を先にし他人をあとにしようとする本能をおさえて、他人を先に、自分をあとにすることにあるといってよい。子供についていえば、数え年5つぐらいになれば他人の喜びはわかる…

読書めも〜『人間の愚かさについて』

<人間の愚かさについて/曽野綾子/2015/新潮新庫> ・死者のことを小説の題として「愛された人」と表現したのは、確かイヴァン・ウォーだったと思う。(中略)家族の遺体の出ない人は、行方不明になってはいても、どこかで生きているのではないかと考える…

読書めも〜『暇と退屈の倫理学』

<暇と退屈の倫理学 國分功一郎/2011/朝日出版社> ・定住によって新しいものとの出会いが制限され、探索能力を絶えず活用する必要がなくなってくると、その能力が余ってしまう。この能力の余りこそは、文明の高度の発展をもたらした。が、それと同時に退…