4年前の写真

壁の下がどうなっているかこの家が工事中の写真を探すため、4年前の写真のデータをみていると、当たり前だけどその頃の子どもたちの写真がいっぱい。息子がいまの長女の年齢だ。

「父ちゃんおかえり!明日でドリブルさいごだね。ごめん先にねるけど明日またあそぼうね」という息子の書き置きの写真が出てきた。この頃は、ただ遊ぶだけだった。前の家は近所に友達がいなかったので、一番の遊び相手はぼくだった。まだあどけない次女の手をつないで一緒にあるく優しいお兄ちゃんであり、この頃は息子と長女がセットで遊んでいた。ついこないだなのに、今とはぜんぜんちがう。でも少しずつ変わってきたことだから、自然と今につながっている。

この頃に戻りたいとは思わない。もう一生懸命、これ以上ないくらい時間を費やし、遊びきったから。悔いはないが、やはりこの頃は懐かしい。息子はもう親離れの年齢である。元気にまっすぐ優しく育ってくれたのだから、もういうことはない。任せよう。

写真のデータは古いハードディスクにも1万8千枚あった。ちゃんと整理して、厳選して出力してアルバムにしたいが、なかなか大変な作業である。

紅葉の色

長女がはなれで一緒に寝るようになった。理由はわからない。なので、はなれには息子と長女とぼく、寝床では妻と次女が寝ている。

朝、寝起き眼で中庭の朝顔を見て「白色ばっかりだね」とつぶやく。

「もう上までいっちゃってるよ。」

朝顔たちは二階の手すりの高さまで到達した。小さな植木鉢で土が少ないのによく伸びたものだ。和室に差し込む光はおかげで柔らかい。

朝顔の手前に紅葉がある。

「緑色になったね」

この紅葉は色はバラバラ。今は半分は緑色で、もう半分は紫色だ。春先は真っ赤で、一斉に夏に濃い紫色になり、半分が緑色に最近かわった。

「これから、真っ赤に紅葉して、そして冬の前に葉っぱを落とすよ。」

「じゃ、緑色にならないほうが楽じゃん。」

「そのまま紫色から赤色になって落ちたほうがいいってこと?」

「そう。」

紅葉に「そのほうが楽」という考えはあるのだろうか。緑は緑で、白い壁や青空に映えるのでこの期間も目が楽しい。

言葉が通じるか

「ねぇ、メルって、こっちがメルの言葉わかってないって、わかってるかな?」(次女)

朝、ぼくが洗濯物をたたんでいると。

「わかってないんじゃない?お腹すいたってないてたら、エサあげるし。」

ちゃんとメルと呼ぶと返事も返ってくる。ぼくが庭にでればついてくる。見えない位置に移動したら呼ぶ。求められ、返すことで信頼関係ができてる。言葉はなくても。

 

たとえ同じ日本語でしゃべってても、心が分かり合えない間柄は珍しくない。例えばぼくの場合は職場でよくあるし、もっともらしいだけで何もいっていない政治家の言葉は空疎でしかない。

それは言葉がなまじっか通じるという前提があるから、余計にストレスだ。でも、思想が重なることがないから、気持ちまでは重なず、話していないのと変わらない。

 

言葉が通じない前提で、分かり合えたという瞬間があるコミュニケーションのほうが、うれしくて楽しいこともある。

スイミング

長女と次女のプールの見学。2階のガラス越しに下のプールを見下ろす。今日はいい場所のベンチが空いていて、長女と次女がスタートするところをじっくりみれる。次女は手前のコース、長女は隣の奥のコース。

ふたりとも背泳ぎをしている。すぐに次女は真上のパパに気づく。うれしそうにパッと笑顔になる。こちらも手をふる。背泳ぎだからゴーグルはしていなくておでこにある。その顔が息子の小さい頃を彷彿とさせる。二人は似ているのだなと気づく。

12.5mくらいのところで止まり、コースの脇を伝ってもどってくる。その間ずっとぼくの方をみてお互い手をふる。年賀のときの皇族のようにぼくは手を振り続ける。うれしそうである。小さな子どもには眼差しが愛情を注ぐ行為そのものなのだと実感する。世界に放り投げだされた身、彼女を見つめる眼差しが近くにあると安心するのだろう。近くにいるだけではダメなのだ。視線を逸らさせるスマホは子育てに害でしかない。

一方の奥の長女も泳ぎながらぼくに気づく。彼女はゴーグルをしている。彼女は50mを泳いで戻ってくる。みてるだけで疲れる。スタート地点で順番待ちをしているときにちらっとぼくの方をみて、手をさっと1回ほど振ってあとは自由にやっている。眼差しは確認するが、ずっと求めることはない。次女のか細いヨタヨタした泳ぎと比べ、長女はバタ足も強く大きな水しぶきをあげ、実に力強く進んでいく。次女が笹舟なら長女はクルーズ船かというくらい違う。もともとなぜか体幹がしっかりしていて姿勢がいい。次女はそれをスタートまでの待機の間に指を口にくわえながらみている。

次女にすれば、長女は何でもできる存在なのだろう。脅威であり、憧れである。引け目を感じることなくおっかける、あるいは我が道を行ってくれればいいのだけど。次女がバタ足泳ぎに切り替わり、スタートするときに横から長女がゴーグルを指し示している。次女が気づき、おでこのゴーグルを装着する。長女が世話を焼く微笑ましい光景。

ふたりともおのおの楽しんでいるし、毎週みているとどんどん上達するのもわかる。更衣室から自分たちで着替えて出てくる。そこにある自動販売機のアイスをおねだりされるが、「どうせだめだろう」と思っていたのだろうあきらめが早かった。

どれがいい

朝保育園に行く前の次女。お絵かきを始める。

「みて、この洋服かわいい?」

ドレスを来た女の子。ディズニー・プリンセスのようなドレスだ。花柄のもの、胸元がX字の紐になっている中世ヨーロッパ風のものなどいろんな種類のドレスを描いている。

「それがいい?」

皿を洗っているぼくに聞いてくるので「花柄」と答える。

「こっちのほうがかわいいとおもう」とヨーロッパ風のものを示してくる。

ときどき、考え事をしていて適当に返事をしていると「聞いてる?」と詰問される。

階下にいって洗濯物をたたみながら保育園に送るスタンバイをしていると「できた」といって絵を見せに来る。紫色の長いドレスを着た女の子に仕上がっている。

「靴がないね」と指摘したらまた席に戻り、長靴を何種類も描いてきた。赤色、黒色など。自分のお気に入りもすでに決まっている。

 

「頭タオル、どれがいい?」

絵ができて満足してから、ようやく保育園に持っていく準備にとりかかる。

「このスティッチのでいいじゃん。」と選んであげると、

「小さいじゃん。いい。自分で選ぶ」とまた自分の好みのもを選んではセットしていた。

 

質問してくるものの、もう結論はあるんだな。これからは「どれがいいとおもうの?」と答えるより先に聞いてみよう。だいたい正直に答えると彼女のお腹の中にある「答え」とズレることを今朝点検できたし。

 

鴨への愛

学校から帰ってきた長女が、帰宅して早々庭で野良仕事をしている妻を手伝いながら、メルを抱っこして離さない。「だいすき」といいながら、椅子に座り抱きしめ、メルの顔にほおずりしている。メルもおとなしく長女の膝の上に座りこみ、なされるがままである。相思相愛にみえる。我が子が愛情が深い姿を見るのは微笑ましい。やがてメルがモジモジ動き始める。長女が抱えたままそっと芝生に戻す。プリッとウンチをする。

「すごいね、ちゃんとそろそろウンチするかなってわかるようになったんだね」と長女を褒める。

「メルが、我慢してくれるようになったんじゃない」と長女はメルを褒める。

親孝行

我が家の木製建具の引き戸が、どうもネズミに齧られているようで、けっこう端っこが傷んでいた。原因が分からなかったけど、どうもネズミのようだ。家の土間や中庭でなんどか目撃して、そのすばしっこさに手を焼いていた。米袋も外からホジホジやって穴を開けた形跡もあり。メルの餌もあるし、絶好の場所なのだろう。やむを得ず殺鼠剤を買って各所においた。

昨日、また妻と長女が中庭で逃げていくネズミをみたそうな。次女が「わたしもみたかった」とダダをこねた。「住み着いているんだね」と妻。

「メル、食べてくれないかな。」とぼく。

「メルちゃんのスピードは全く追いつけない。あの子、もうお嬢ちゃんだから。」と妻。

そして今日。妻から携帯に驚きとともにLINEが。

「メルが食べた!」

よっぽど興奮していたのだろう。何を食べたか書いていない。だけど察しがついた。

メルがネズミを食べてくれたそうだ。

「続きは動画で」

 

帰宅時。公文の息子を途中で迎えて、二人で夜道を自転車で帰る。

「メル、ネズミ食べたらしいぞ」

「まじで?知らんかった。鳥類って、哺乳類食べるんだね」

 

家について早速話題にした。長女も次女も興奮気味にはなす。

妻が帰宅したら、すでに口にくわえていたという。しっぽだけが口から出ていた。

 

妻が携帯を持ち出して、動画を見せようとする。我が子たちが取り合いになることを先に見越して「一人ずつね」とルールを決める。息子、次女、長女の順にみる。そのあとで、ぼく。

「痛かったんだと思う」と妻。口にくわえながら、バタバタと何周も中庭を回っている。口のなかでジタバタしているのがつらそうだ。

何周もして、まだ口にネズミが動いているところで動画が終わっていた。まだ途中で先がみたい。

「一度撮影やめて、助けてあげようと思って。」

でもその後、すぐに飲み込んでしまったらしい。そしてすぐにウンチをプリッと出したのだとか。

「クチバシに血がついてたよ。」

我が家の中庭がサバンナになったようである。

その後、妻が草むしりをしたときも庭についてきて、平和に過ごしてそのあとすやすやねたようだから、体調に変わりはないようだ。ほっとする。

「メルが捕まえるところ、みたかったな。」

昨夜見くびっていたからなおさらである。

「弱ってたんじゃないの。」と妻。すばやくメルが捕獲するのはまだイメージできていないらしい。

「でも、ほんとうにでかした。勲章あげたいわ」とぼく。建具の敵を愛鴨がうってくれた。親孝行なやつだ。

「勲章首からさげても、いやがってすぐとるだろうけどね。」とすかさず息子がいう。

ぼくがみたのは「指先くらいの小さなネズミ」だったと話をしたら、「このくらい?」と長女が自分の指先で示してくるので、「いやこのくらい」とぼくの親指で示す。

「でっか。」

イメージと異なった大きさだったようだ。